2009.9.8
「2割5分10本なら、捕手としてはまぁよくやっているほう」
「三塁手にはもう少し打てる選手が欲しい」
「遊撃手であれだけ打てる選手というのはなかなかいない」
etc...
打撃というのは、よく守備位置を考慮して評価されます。これはそもそも担当する守備位置ごとに試合での仕事が大きく異なり、負担に差が出るためでしょう。
捕手や遊撃手などは負担が大きい守備位置と言われます。ですからそのことを差し引いて考える必要があるでしょうし、実際に負担が大きいのか小さいのかということに関わらず例えば「捕手の打撃」という面で他のチームに比べて勝っているなら所属チームにアドバンテージをもたらしていると見ていいのかもしれません。
では、一体捕手ならどのくらい通常と合格ライン、基準が違うんでしょうか? OPSの平均が.730だとして.650でもいいのか、.500でもいいのか、もっと低くてもいいのか。逆に打撃重視の守備位置にはどのくらいの打撃が期待されるんでしょうか。
以下ではそういった疑問に対してある程度明確な答えを与えるために実際の打撃成績を守備位置ごとに区切ったデータを出してみたいと思います。
使用するデータは2006年から2008年の日本プロ野球打撃データで、投手を除く全ての打者についてNaranja氏提供の推計守備イニングデータを用いて打撃成績を分割。シーズンを通じて150安打で守備イニングは一塁手で800、三塁手で200という選手がいた場合、150安打のうち8割の120安打を「一塁手打撃成績」のカテゴリーへ、2割の30安打を「三塁手打撃成績」のカテゴリーへ……ということを全ての打者について繰り返し、最終的に守備位置ごとの打撃成績を算出しました。
ひとつの守備位置での守備記録しか残っていない選手に関しては当然全ての打撃成績が該当守備位置のカテゴリーに入ります。代打出場のみなど守備記録のない打撃成績に関しては(ほとんどないので影響は実質ありませんが)除外しています。
データに入る前に使用する指標について少し説明します。様々な比較において非常に簡便な打撃指標として以前ブログに書いた「平均打撃点」を使います。漢字5文字も重苦しいので適当ですが呼び方はRun Value Average略してRVAにしましょう。Tangotigerの開発したwOBAを改変したものです。最終的な数字は打率と同じように見れて、それでいて得点に変換可能というメリットがあります。
ここでは盗塁を含める式として
RVA=(0.56×(四球+死球)+0.72×(安打-二塁打-三塁打-本塁打)+1.01×二塁打+1.29×三塁打+1.66×本塁打+0.19×盗塁-0.44×盗塁刺)/(打数+四球+死球+犠飛)
という形で使用します。とりあえず日本版Batting Runsの打席あたりだと思ってください。
このRVAから、ある対象に比べて特定の打席数で何点多くの得点を創出するかということは以下の式で求められます。
余剰創出得点=(RVA-対象のRVA)×任意の打席数
各打者のRVAについて計算するとき、「対象のRVA」にリーグの野手平均RVA、「任意の打席数」に打者の打席数を入れればいわゆるBRの数字が求められることになります。
3年分集計したデータを、リーグごとに示します。安打数、本塁打数、四死球数などの数字も500打数換算で示すことにします。
まずはセ・リーグ。
守備位置 | 打数 | 安打 | 二塁打 | 三塁打 | 本塁打 | 四死球 | 打率 | 長打率 | 出塁率 | OPS | RVA |
捕手 | 500 | 124.2 | 21.6 | 1.0 | 11.7 | 50.1 | .248 | .366 | .315 | .680 | .243 |
一塁手 | 500 | 142.9 | 25.4 | 1.2 | 21.7 | 49.4 | .286 | .472 | .348 | .820 | .287 |
二塁手 | 500 | 131.6 | 18.3 | 2.1 | 5.3 | 38.9 | .263 | .340 | .315 | .655 | .236 |
三塁手 | 500 | 137.1 | 22.0 | 1.6 | 19.8 | 47.6 | .274 | .443 | .335 | .778 | .274 |
遊撃手 | 500 | 135.9 | 19.8 | 2.3 | 8.6 | 45.8 | .272 | .372 | .332 | .704 | .253 |
左翼手 | 500 | 141.5 | 24.7 | 2.0 | 16.9 | 45.4 | .283 | .442 | .340 | .783 | .275 |
中堅手 | 500 | 140.9 | 21.9 | 2.2 | 10.3 | 48.0 | .282 | .396 | .343 | .739 | .266 |
右翼手 | 500 | 134.6 | 25.5 | 2.2 | 17.6 | 49.6 | .269 | .434 | .333 | .768 | .270 |
OPSに関して捕手の水準は.680のようです。なお、セ・リーグの捕手には阿部慎之助という存在がおり雑に言えば1/6近くが彼に占められることになるので影響は大きいのですが、そういう選手がたまには紛れることも含めての「捕手という守備位置」で(古田や城島などリーグに一人ぐらいクリーンアップレベルの捕手がいる状況は継続的にあったわけで)すし、そこまで青天井の成績を叩き出しているわけではないので特別に考慮する必要はないかな、と考えています。ともあれOPS.680を超えればリーグの平均的な捕手に比べてよく打っていると判断できます。
興味深いのは守備について考えるとき常に特例である捕手を退けて、この期間のセ・リーグで最も打てない守備位置は二塁であること。守備の内容に関しては遊撃手と互換性が高いので同じような人材が振り分けられるか右翼と左翼のように打撃型と守備型での住み分けが生まれてもいいように思いますが、二塁手は明らかに遊撃手より打っていないわりに守備指標などを見るに遊撃手に比べて特別に守備に秀でた者が集まっているようにも感じられないのです。
限りある「身体能力が高く攻守に優れた内野手」の資源をアマチュアの段階から遊撃に吸い取られ、そのうちに「どのチームの二塁手も打てないから打てない野手をおいても許される守備位置」になんとなくなってしまっているのかもしれません。
そういう状況があればある程度打てる選手を置くことで一気に攻撃の利得が得られるという誘惑にかられるチームが出るのは当然の話で、打撃型の選手を置く→守備で大きな損失を出す→少し守備寄りの選手にする→打撃であまり利得が得られない→少し打撃寄りの選手に……という原理が働いてもう少し高い打撃レベルで均衡していてもよさそうなものですが、若干不思議です。
打撃のレートスタッツが野手平均の何倍であるかを算出し、RVAで降順に並べました。
守備位置 | 打率 | 長打率 | 出塁率 | OPS | RVA |
一塁手 | 1.05 | 1.15 | 1.04 | 1.10 | 1.09 |
左翼手 | 1.04 | 1.08 | 1.02 | 1.05 | 1.04 |
三塁手 | 1.01 | 1.08 | 1.00 | 1.05 | 1.04 |
右翼手 | 0.99 | 1.06 | 1.00 | 1.03 | 1.03 |
中堅手 | 1.03 | 0.97 | 1.03 | 1.00 | 1.01 |
遊撃手 | 1.00 | 0.91 | 1.00 | 0.95 | 0.96 |
捕手 | 0.91 | 0.89 | 0.95 | 0.92 | 0.92 |
二塁手 | 0.97 | 0.83 | 0.95 | 0.88 | 0.90 |
打っている守備位置のほうを見ると、一塁手が最もよく打っていて続くのが左翼手や三塁手。中堅や遊撃がどちらかといえば打てないグループに入り、このあたりはイメージ通りなのではないかなぁと思います。
このサンプルからすると、一塁手には平均の1割増しのOPSが要求されるということになります。二塁手は出塁に関しては捕手に劣らないものの強打で一段劣るようですね。小柄な選手が多いのが連想されます。
続いてパ・リーグ。DHが入ります。
守備位置 | 打数 | 安打 | 二塁打 | 三塁打 | 本塁打 | 四死球 | 打率 | 長打率 | 出塁率 | OPS | RVA |
捕手 | 500 | 114.3 | 22.5 | 1.3 | 9.5 | 38.8 | .229 | .336 | .282 | .618 | .221 |
一塁手 | 500 | 134.7 | 24.2 | 1.0 | 17.9 | 53.9 | .269 | .429 | .337 | .767 | .271 |
二塁手 | 500 | 133.5 | 24.0 | 3.3 | 5.9 | 40.6 | .267 | .364 | .320 | .684 | .245 |
三塁手 | 500 | 129.0 | 26.6 | 2.4 | 14.3 | 43.6 | .258 | .407 | .315 | .722 | .255 |
遊撃手 | 500 | 135.4 | 23.0 | 3.8 | 6.3 | 44.6 | .271 | .370 | .329 | .699 | .251 |
左翼手 | 500 | 136.5 | 25.4 | 2.6 | 10.8 | 48.8 | .273 | .399 | .336 | .735 | .262 |
中堅手 | 500 | 133.9 | 21.2 | 3.6 | 6.3 | 42.1 | .268 | .362 | .323 | .685 | .246 |
右翼手 | 500 | 134.4 | 25.5 | 2.7 | 13.3 | 47.7 | .269 | .410 | .331 | .741 | .262 |
DH | 500 | 133.4 | 26.3 | 1.1 | 22.6 | 63.8 | .267 | .460 | .348 | .807 | .284 |
こちらのほうは期待通り(?)捕手が最も打てない守備位置となっています。やはり二塁手はその次に打てないのですが、これをもってして二塁の負担は遊撃より大きいといった類推をしていいのかどうか。微妙なところです。
パ・リーグはDHがあり広い球場でプレーしているために相対的に外野が守備重視となっているような雰囲気もあります。両翼はDH・一塁に続いてよく打っている守備位置ではありますが、平均と比べてさほど打撃の目立つ守備位置であるということはありません。
レートスタッツの傑出度。RVAで降順。
守備位置 | 打率 | 長打率 | 出塁率 | OPS | RVA |
DH | 1.01 | 1.17 | 1.07 | 1.12 | 1.11 |
一塁手 | 1.02 | 1.09 | 1.04 | 1.07 | 1.06 |
右翼手 | 1.02 | 1.04 | 1.02 | 1.03 | 1.02 |
左翼手 | 1.03 | 1.01 | 1.03 | 1.02 | 1.02 |
三塁手 | 0.98 | 1.03 | 0.97 | 1.00 | 1.00 |
遊撃手 | 1.03 | 0.94 | 1.01 | 0.97 | 0.98 |
中堅手 | 1.01 | 0.92 | 0.99 | 0.95 | 0.96 |
二塁手 | 1.01 | 0.92 | 0.98 | 0.95 | 0.96 |
捕手 | 0.87 | 0.85 | 0.87 | 0.86 | 0.87 |
さすがに、その他の「守備位置」を引き離してよく打っているのはDHです。当然ですね。
捕手・二塁手・遊撃手・中堅手のいわゆるセンターラインが下から4番目までを占めてそれ以外がよく打つという図式はセとパで共通しています(ただしセの中堅手は平均以上の打撃)。このあたりは、実際守ってどれだけ大変なのかということを抜きにしても起用する側の野球観という偏りが加わって図式がより強固なものとなっている可能性もあります。
結果それぞれの打撃成績の差が得点創出でどのくらいの影響になるのかということを計算します。
対象としたポジションプレーヤーの平均に対する守備位置ごとの年間BR。RVAから計算したものです。
セ・リーグ | BR | パ・リーグ | BR |
捕手 | -13 | 捕手 | -20 |
一塁手 | 15 | 一塁手 | 9 |
二塁手 | -17 | 二塁手 | -6 |
三塁手 | 7 | 三塁手 | 0 |
遊撃手 | -7 | 遊撃手 | -2 |
左翼手 | 8 | 左翼手 | 4 |
中堅手 | 2 | 中堅手 | -6 |
右翼手 | 5 | 右翼手 | 4 |
DH | -- | DH | 17 |
セ・リーグは637打席、パ・リーグは592打席の機会を均等に与えたと仮定した場合の数字ですので、その数字で割れば打席あたりのBR補正値になります。つまり大雑把に言えばセ・リーグの捕手を評価するときに「BR-(-13/637)×打席」とすれば平均的な打者に比べて何点多く稼いだかではなく平均的な捕手に比べて打撃で何点多く稼いだかという評価をすることができます。
セ・リーグ二塁手の打てなさ加減からすると、平均的な三塁手(RVA.274)が二塁に入って同じように打てれば二塁のRVA.236と比べて600打席で (.274-.236)×600=23 23点の打撃利得を出せることになります。その際平均的な二塁手に守備で20点劣っても3点のプラスが残る、という具合。これは典型的な机上の計算ですが、同じ内野手でも打撃の水準がそれだけ違うということを言いたいのです。
この結果は総合評価をするときの守備位置補正になり得るもので実際そのためにデータを集めたのですが、二塁手の問題もありこの数字がそのまま使えるかは微妙なところです。一般的な法則を出すためにはより多くのサンプルが必要かもしれません。しかし守備のスタイルというのは歴史的に変革を続けているらしい(当然負担や難易度が変わるはず)という研究もあるため、あまり時代を遡ったデータを含めるのは現代の事情と乖離してしまうという問題もあります。
守備位置から話題を移します。
米国のセイバーメトリクスでは、選手を評価する際の基準として「Replacement Level(置き換えることが可能な水準)」というものが好まれます。今のところ日本では見かけませんが。
平均を基準とする場合、ずっと出続けてやや平均を下回った打者(例えば600打席でBR-2など)とちょっとの出場で多少のプラスを出した打者(例えば60打席でBR+3)とを比較するとき後者のほうが上になってしまい、それは貢献度の評価として納得しにくいという問題があります。出続けていた平均程度の選手が故障や不調で出られなくなれば、ベンチに控えているのは当然実力で劣る選手ですからもっと大きなマイナスが生産されていたことになるのです。創出した得点全体を表すRCにも絶対的な価値があるかと言えば、600打席で10や20だったらさすがにまずいでしょう。
そこで使われるのが「Replacement Levelが出場する場合に比べてどれだけ利得を稼いだか」という評価で、上記の疑問を受ければリーズナブルな基準です。平均との比較がマイナスでも一般的に交代可能な程度の選手を出すよりはマシならそれはそれで評価していいし、交代可能な程度を下回るようならそれこそ交代させてしまえ(プラスの評価に値しない)と。
しかし問題は、Replacement Levelって結局何?ということです。仮想の中での取り替え可能な選手なんでしょうが、それが理論としてどういうものであるかのさほど具体的な定義も数字的にどういうレベルであるかの明快な答えも案外出てきません。あえて言えば指標の作成者それぞれに定義があります。そしてもちろん仮にMLBで決定版という基準があったとしてもそれをそのまま日本に持ち込めるかどうかはわかりません。
今回は米国の言うReplacement Levelがどういうものであるかに関わらず、「一般的な控え選手」ぐらいのくだけた考え方で日本プロ野球の基準を探ってみようかと。守備位置別打撃と同じデータと手法で控え選手の打撃レベルがどのくらいなのかを計ります。
物凄くシンプルに考えてみましょう。野球は9人でやるスポーツで、勝つために優れたものを多く出場させます。残りの選手はベンチで待ち、何らかの機会に時折出場します。それがレギュラーと控えの関係です。言い換えれば多く起用される選手がレギュラーであり残りが控え選手です。
そしてルールからして、9人のスタメン(≒レギュラー)がいます。スタメンは固定されることが多く、彼らは優先的に起用されるために打席数が多くなります。だとすれば、打席数の多い順に9人がレギュラーで残りが控え、という考え方ができます。
というわけで野手全体から各リーグ打席数順にパ・リーグは9(人)×6(チーム)で54人をレギュラー、セ・リーグは投手を除いて8(人)×6(チーム)で48人をレギュラー、その他を控え選手と振り分けてみました。そうして振り分けられた控え選手の打撃成績を集めれば「一般的な控え選手の打撃レベル」がわかります。
非常に単純ですし、実際には併用というような形で「日常的に出続ける選手」はもっと多いのですが、客観的で明確な区切り方を見つけられなかったのでこのような形としました。
このデータに関してはあまりリーグを分ける必要性はないと考えますので、2006年から2008年の両リーグのデータからまとめたものを示します。
平均を含めてレギュラーと控えの500打数換算打撃成績。
水準 | 打数 | 安打 | 二塁打 | 三塁打 | 本塁打 | 四死球 | 打率 | 長打率 | 出塁率 | OPS | RVA |
レギュラー | 500 | 140.3 | 24.2 | 2.1 | 14.7 | 49.2 | .281 | .425 | .343 | .768 | .272 |
野手平均 | 500 | 134.1 | 23.4 | 2.1 | 13.0 | 47.0 | .268 | .402 | .329 | .731 | .260 |
控え | 500 | 115.6 | 21.1 | 2.2 | 8.0 | 40.5 | .231 | .331 | .287 | .618 | .222 |
振り分けの基準が厳しいのでもう少し控えも強く出るかなと思ったのですが、OPSで6割ちょっとという結果になりました。出塁においても強打においても平均を大きく下回ります。
RVAベースの計算で控え選手が600打席立ったら平均に比べて失われる得点数は22。「BR+(22/600)×打席」で控え選手に比べて打撃でもたらした利得を計算できます。レギュラーと控えの差は600打席で30点。
ちなみにIsoDに関しては平均が.061で控え選手が.056ですから、四死球での出塁という要素に特別な違いがあるわけではないようです。IsoPが平均.133に対して.099、打数あたりの本塁打が62%程度ですから一定以上の長打力があるかないかが分かれ目となっている感もあります。
水準 | 安打 | 二塁打 | 三塁打 | 本塁打 | 四死球 | 打率 | 長打率 | 出塁率 | OPS | RVA |
控え | 0.86 | 0.90 | 1.03 | 0.62 | 0.86 | 0.86 | 0.82 | 0.87 | 0.85 | 0.86 |
野手平均に対する比率に直したもの。RVAから控え選手に比べて打撃でもたらした利得を計算するなら「(RVA-0.86×リーグ平均RVA)×打席」という式になります。
英語で言えば平均と比較するのはAbove Average、取り替え可能な水準と比較するのはAbove Replacement。米国の解析でBRAAとBRAR、FRAAとFRARとか出てくることがありますがそういうことです(ただし先に述べたようにここでの「控え選手」は米国の言う「Replacement」と同じ理念を目指しているわけではありません)。
ざっと計算すると平均的な打者を一般的な控え打者に置き換えると一試合の得点が0.15減少で、得点率4.10を基準とすると割合的には3.7%の減少。ピタゴラス勝率にあてはめると平均的なチームで勝率が.500から.483へ下がるので、勝利確率1.7%(144試合で2.5勝分)の減少となります。
最後にここまでやってきた守備位置別評価と控え選手評価の複合技、すなわち守備位置ごとの控え選手打撃レベルに挑みます。
チームごとの戦力格差ということを考えないとしても、交代するレギュラーが右翼手であれ捕手であれ控えの攻撃力レベルが同じだということは考えにくいです。
外野手には多少の余りがあってもまともに打てる捕手はレギュラーの一人だけというチームは珍しくはないでしょう。レギュラーの捕手が故障して右往左往という状況はあっても、右翼手の代わりがどうしてもいなくて困るということにはほとんどならないような気がします。
取り替えが起こったときに損失が大きい守備位置で優れた貢献を積み重ねているならそのことをきちんと評価してやる必要があります。
解析の仕方は単純に控え選手の中で最初に説明したような守備位置ごとの分配を行い結果をまとめるだけです。
わかりやすさとサンプル数の関係でこれも両リーグの結果をまとめて出します。まずは500打数換算の打撃成績から。
守備位置 | 打数 | 安打 | 二塁打 | 三塁打 | 本塁打 | 四死球 | 打率 | 長打率 | 出塁率 | OPS | RVA |
捕手 | 500 | 106.0 | 19.3 | 1.5 | 6.9 | 37.7 | .212 | .298 | .266 | .563 | .203 |
一塁手 | 500 | 117.2 | 21.3 | 1.2 | 11.4 | 40.4 | .234 | .350 | .290 | .640 | .229 |
二塁手 | 500 | 115.6 | 20.3 | 2.7 | 4.9 | 38.8 | .231 | .312 | .285 | .597 | .215 |
三塁手 | 500 | 111.1 | 20.0 | 2.8 | 7.1 | 39.8 | .222 | .316 | .278 | .594 | .213 |
遊撃手 | 500 | 106.7 | 16.4 | 2.4 | 3.6 | 35.9 | .213 | .277 | .265 | .542 | .197 |
左翼手 | 500 | 119.3 | 23.4 | 2.6 | 8.3 | 42.9 | .239 | .346 | .297 | .643 | .231 |
中堅手 | 500 | 123.7 | 20.2 | 2.6 | 7.2 | 40.1 | .247 | .341 | .301 | .643 | .233 |
右翼手 | 500 | 120.1 | 23.7 | 2.3 | 9.6 | 43.4 | .240 | .354 | .299 | .653 | .234 |
DH | 500 | 119.5 | 25.9 | 1.2 | 14.8 | 45.6 | .239 | .385 | .301 | .686 | .244 |
取り替えたときの攻撃力の低さという視点では、遊撃手が急に最上位にきました。このサンプルの期間の「控え遊撃手」は一般にOPS.542程度だということです。同じぐらい低いのがやはり捕手。
外野の控え選手に関してはあくまで流動的に起用される「外野手」でありレギュラーほど左翼・中堅・右翼で分かれていないらしい様子が見えます。
打撃指標の野手平均に対する比率と600打席あたりのBRAA。BRAAで降順。
守備位置 | 打率 | 長打率 | 出塁率 | OPS | RVA | BRAA |
DH | 0.89 | 0.96 | 0.91 | 0.94 | 0.94 | -10 |
右翼手 | 0.90 | 0.88 | 0.91 | 0.89 | 0.90 | -16 |
中堅手 | 0.92 | 0.85 | 0.92 | 0.88 | 0.90 | -16 |
左翼手 | 0.89 | 0.86 | 0.90 | 0.88 | 0.89 | -17 |
一塁手 | 0.87 | 0.87 | 0.88 | 0.88 | 0.88 | -18 |
二塁手 | 0.86 | 0.78 | 0.87 | 0.82 | 0.83 | -27 |
三塁手 | 0.83 | 0.79 | 0.84 | 0.81 | 0.82 | -28 |
捕手 | 0.79 | 0.74 | 0.81 | 0.77 | 0.78 | -34 |
遊撃手 | 0.80 | 0.69 | 0.81 | 0.74 | 0.76 | -37 |
DHであってもさすがに控え選手が平均を上回る打撃力を見せはしないようです。比率にしてもそうですがBRAAはあくまでも野手全体の平均との比較であって、同じ守備位置の平均との比較とかではありません。ですから、単純に控え三塁手の打力は控え二塁手の打力と同じくらいだということです。
同守備位置平均との比較をするのであれば一塁手・三塁手あたりはレギュラーが抜けるとさすがに控えにまで「打てる選手」はいないので著しく攻撃力が低下してしまうようです。
基本的に一塁手を除く内野と捕手が控え打撃の水準が低く、これらの守備位置は無難に出場し続けることのバリューが高いとも言い換えられます。レギュラーが野手平均レベルだとするとシーズンの1/3離脱されると得失点収益で約-10、勝利がひとつ減ってしまいます。そんなもんかという気もしなくもないですが、これはもちろん守備を考慮していない数字です。
打撃の利得を求めるとき、ある遊撃手が控え遊撃手に比べて何点の利得をもたらしたかということは「(RVA-0.76×リーグ平均RVA)×打席」の式で求められます。守備位置を変えるときは対応する係数に変えるだけです(複数の守備位置を守っている選手に関してはその割合に応じて加重平均すればいいでしょう)。
守備位置別打撃レベル、控え選手打撃レベル、守備位置別控え選手打撃レベルをそれぞれ求めました。
控え選手の水準を考えると捕手などはBRAAが-30でも必ずしも責めることはできないのかもしれませんが、それでも平均的な野手に比べて打撃で30点分劣っているということもきちんと考慮されて然るべきだと考えます。守備位置の平均ももっと高いですし。基準の利用は目的に応じてケースバイケースであるべきでしょう。もちろん明確な目的と筋道に対してひとつの基準に絞ることは「偏った見方」と批判されるべきものではありませんが。問題は何をしたいのかです。
おまけで個別のアナライズにあてはめたらどうなるのかということについて、本文中にも登場した阿部慎之助で考えてみましょう。
阿部は2006年から2008年を通じて1550打席(打数+四死球+犠飛)でRVA.291、この期間のリーグ野手平均が.264ですから、BRで42点を稼いだ平均以上の打者です。計算方法があまり厳密でないことはご容赦下さい。
放っておいても平均以上の優れた打者ではあるのですが、これにさらに捕手の控え水準(RVAが野手平均の0.78倍)を使うと (.291-.78×.264)×1550=132 で、一般的な控え捕手の打撃レベルと比較してもたらした利得は132点。年間あたり44点ですから阿部クラスの打撃の捕手を失うことは一般的に言えば甚大な被害となる、というふうに考えられます。
もう一人2008年優勝チームの捕手である細川亨に登場願いましょう。彼の場合2006年から2008年の成績は1135打席でRVA.227ですからリーグの野手平均.256を下回り、3年でBR合計-33となってしまっています。そして今度はここに捕手の平均打撃レベルを適用してみます。パ・リーグの場合野手平均に対して0.87倍ですので (.227-.87×.256)×1135=5 一般的なリーグの捕手の水準と比較すると実はプラス5の打撃なのでした。これがいわゆる「捕手としては悪くない」というやつなのではないでしょうか。さらに当サイトの捕手守備評価より、細川はこの期間守備で平均的な捕手に比べて17ほど失点を防いだと評価できます。打撃と合計すれば、3年間で平均的な捕手に比べて総合的に+23点の利得を出したと言えるでしょう。
こんなふうにして色々と基準をあてはめると、それぞれの選手がどのようにチームに貢献しているのかがよくわかるということです。