書評:The Fielding Bible Volume II
The Fielding Bible Volume II
 プロの解析家による守備の数値化について書かれた本の第二弾。
 プラスマイナスシステムという指標があることはもうセイバーメトリクスに親しんでいる人にとっては常識でしょうけど、これまで「平均的な守備者が守る場合に比べてどれだけ多く、または少なくアウトをとったか」だったその評価を得点に換算していること、さらに捕手のレーティングを加えたことが本書の目玉となっています。ここでは軽い紹介と読んで思ったことなんかを書いてみようかと。

 そうそう、わざわざ断るまでもないことですが当ページ執筆時点でかなり新しい本ということで一応。有料で販売されている本なので読む意味がなくなっちゃうような細部のネタバラシはしませんがレビューの都合上どうせ調べれば出てしまう程度の内容は書きますので他人のレビュー読む前にまず自分で味わいたい、という場合は以下を読まずにこのページを閉じて下さいね。



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プラスマイナスシステムの得点化
 第一弾からの偉大な進歩。プレイ数で評価されていたプラスマイナスシステムが得点数に落とし込まれています。そのロジックは多くの守備指標が採用している「得点期待値から導き出したバリューをプラスプレイ数に加重する」というもの。
 守備プレイが成立せずに出塁を許した場合の得点期待値とアウトを奪った場合の得点期待値を比較して値を導き出し、例えば遊撃手ならプラスマイナスシステムの1ポイントに0.76点という加重が使用されています。この3/4程度の加重は既に広く利用されていたもので、こうしてFielding Bibleにも出て来たことでいよいよ守備の失点への影響度のセイバーメトリクス的な「一般的な結論」も固まってきたかなという感じがします。リーダーズの数字を見るとだいたい最も優れた守備者はシーズンで平均的な守備者に比べて20点ほどの利得をもたらす(失点を少なくする)ようです。10点以上を記録すればかなり優れているほう。
 この数字はDefensive Runs Saved、あるいは単にRuns Savedと呼称されています。まんまですね。ちょびっと紹介しますと、2008年のイチロー・福留は平均を超えるスコアをマークしています。
 ちなみに20点というと162試合(MLBの年間試合数)では1試合平均0.12。リーグトップの守備者が加わっても改善されるチーム防御率はせいぜい0.12くらいだと言うこともできます。「あの二遊間の守備はチームの防御率を1点下げている」というような言説が出る(もちろん発言者は表現としてあえて大袈裟に言ったとしても)旧来の価値観からすれば小さいと感じられるような気がしますし、逆に『マネー・ボール』の読者にはわりと大きく感じられるかもしれません。最高の守備者と最低の守備者の差は最高の打者と最低の打者の差に比べるとずっと小さいというポール・デポデスタの発言は程度の問題とはいえ一応矛盾しないようですが。

 後日注:「最も優れた守備者はシーズンで平均的な守備者に比べて20点ほどの利得をもたらす」という文における“最も優れた守備者”というのは各守備位置においての……ということです。また、30点を超える利得も中には見受けられます(ただし稀です)。

 このプラスマイナスシステムからの守備得点化数値はとても優れた解析だと思います。基礎データの分類の丁寧さや併殺・犠打処理など細かいコンポーネントも別で提供されていることを考慮すれば、現状最も完成された守備指標と言ってもいいかと。
 ただ詳細なデータを使用しているわりに[プレイ数評価]→[得点加重]のところで無駄な遠回りをしている感もあり、UZRという同レベルで信頼性の高い守備指標があることを考えると、何かちょっとの中途半端さというかもったいなさが残るのも事実だったりします。まぁその辺、私が気付いていない事情が何かあるのかもしれません。
 ところどころ守備位置それぞれの特性を考慮したユニークな観測・補正が試みられており(外野手のホームランキャッチなど)、その着眼点の細かさには読んでいて思わず唸らされました。




捕手の守備評価
 全くの新設項目となるらしい捕手の守備数値化。ここでもさすがにNPBファンが普通に入手することは到底できないような細かいデータが炸裂しています。ただし概念自体は新しいというほどでもないかな。
 最も注目を集めるであろう部分は捕手別防御率(CERA)を利用したリード的側面(投手の操縦・取り扱い、というような書かれ方をしています)の数値化。
 これには捕手ごと・投手ごとの防御率を細かく見て、当該の捕手が受けているときに同チームの他の捕手が受ける場合に比べて投手の防御率が良いか悪いかを評価の基準としています。仮にA投手の全体の防御率が4.00だったとして、その中でB捕手と組んでいるときに限定すると3.50だったとすると、その余剰分をRSAAのように点数としてB捕手に与える、といった具合。
 要するにこれは投手という要素を標準化した上で(A)ある捕手 と (B)同チームのそれ以外の捕手 を比較しているということになります。CERAを利用しようと思ったとき普通に行けばこの方法にぶち当たるのは当然かもしれませんが、ちょっと考えただけでも難点は大量。
 単純に偶然のブレや投手の調子の問題が大きすぎるでしょうし、相手打線の要素も標準化されていませんし、他チームとの比較はどうするんだとか。また信頼性への疑問から曖昧な根拠で数字のスケールを落とすといった強引な感が否めない補正も行われており、この試みが意欲的で素晴らしいことは前提としてですが、成熟したデータであるとは言い難いです。筆者であるジョン・デュワン自身もノイズがあまりに大きく構築途上のデータだと言及しています。

 面白かったのがそのように求められた点数評価(Adjusted Earned Runs Saved)でMLB過去6年合計のトップ5・ワースト5を載せた表。
 我らが城島健司が最下位でランクされています。
 様々な言説を聞くに日本は捕手が投手をリードする、ひいてはチーム全体の守備を助けるという影響を最も重視している部類の国なのではないかと思いますし、その中でも城島は非常に高く評価されていたはずですが、その選手がこの数字とは。もちろんこの評価法にまだ信頼がおけるとは言えないでしょうし、渡米後2年間の城島の出場率は特に適用するのに向かないものであるような気がしますが(2008年は数字が良化)。
 しかしこの数字、データを持っている人はNPBについても同等のものが算出できるんですかねぇ。疑問が残るとはいえそれは見てみたいものです。

 Fielding Bible Volume IIの捕手評価においてもうひとつ興味深いのは、盗塁阻止の数字についても投手の影響の補正が試みられており、走者の進塁を防ぐことに関して捕手に比べて投手のほうがより大きな影響を持っているとはっきり言及していることです。これが正しいとすると盗塁阻止率を単純に捕手の評価とするメソッドは改められるべきだということになりますが、投手が持つ責任の割合の求め方やそれをどう評価に適用すべきかについて詳細な説明がないようなのは少々残念(結果的な算出法自体は具体的に記載されています)。




その他の守備解析
 プラスマイナスシステム以外にも多岐にわたる細かい守備の解析が実際の選手の成績と共に記されているわけですが、概念としてやや異色で新しいのはビル・ジェイムズによる守備ミスプレイ(Defensive Misplays)の考察。
 これまで守備における失敗というのはエラーで判断されていたわけですが、 Defensive Misplaysでは視点を広げてそのような表面上の記録に反映されないものでもやり損なったプレイを目ざとく観察して記録しています。
 例えば投手が一塁ベースカバーに入り損なえば、エラーと記録されなくてもミスプレイ。あるいは近くに飛んできたファウルフライを見失ってアウトを取り損ねればミスプレイ……50を超えるミスプレイの種類が定義されているようです。
 プラスマイナスシステムに表れない部分をカバーしようとしているというよりは、解析範囲の重複する別の概念というふうに見受けられます。また必ずしもエラーと異なることをしようとしているわけではなく、ミスプレイの中にはエラーとカウントされるものもあります。
 広い視点で守備の働きをフォローしている感があるのはかなり注目に値しますが、やはりこのような解析は専門のスコアラーがビデオを凝視して記録していくしかなく、主観の介入が疑われますし(ビル・ジェイムズはその心配がないように特定の単純な物理的な動きがあったかなかったかだけで機械的に分類できる定義を作ったとしていますが)データベースから検索できるような類のものではないため、新しい概念であることを合わせて考えても漏れがない保証はありません。そもそもミスプレイの種類全てについて詳細に書いているわけではなく、ビル・ジェイムズ考案の定義が野球における守備のやり損ないを漏れなくフォローしているのかどうか検証する可能性も与えられていないというのは少々心許ないところです。
 また結局のところミスプレイの数を数え上げているだけでありそれぞれのプレイがどれだけ失点に影響を与えるのかといった考察も行われておらず、まだまだ問題提起的な色合いの強い考察であるように感じられます(ちなみに、Good Fielding Playsという概念も存在)。

 ビル・ジェイムズはまたUniversal Fielding Percentageという記事も書いています。見出しからひょっとして基礎データ弱者に優しい新たな指標か何かかと思いましたが正直なところかなりライトな記事で、出ている指標もまぁFielding Percentageです。要旨としてはちょっとでも書いたら完全なネタバラシになっちゃうぐらいのもの。


 で、以下はなんだかレビューから離れる書き方になる感があるので控えようかとも思ったのですが身近で面白い話題なので。
 ビル・ジェイムズはさらに守備位置を超えて守備者を比較する守備位置補正とでも言うべきものについて非常にわかりやすく具体的なメソッドを記しています。内容は負担が多いと考えられる守備位置での出場分に平均的な貢献値を付与し各守備位置でのプラスマイナスに加算するというもので、これは得点と勝利という単位の違いこそあれど当サイトが総合評価で用いている補正と同じ手順です。
 守備位置ごとの補正値は打撃スタッツから間接的に求めたもので最終的に打撃の評価と足し合わせるならある意味打撃評価を守備位置で補正しているのと同じことであり、管理人としてはこれにどうも前々から納得がいかなかった(打ってないところが守備の貢献が高い根拠はあるのかとか)のですが、やはりこのような形で見るとひとつの考え方としてわかりやすく、そろそろあきらめて認めなければならないかなぁとも思っています。
 同じ試みをNPBに適用することは少々のノイズを覚悟すれば可能で、実際そのうち参考にさせてもらうことがあるかも。




守備評価を超えて
 Fielding Bible Volume II には締めくくりとして選手を得点で総合的に評価した数値(Total Runs)が掲載されています。評価は4つのコンポーネントから成り

 (1)打撃得点(Runs Created)
 (2)守備得点(Defensive Runs)
 (3)走塁得点(Baserunning Runs)
 (4)守備位置補正値(Positional Average)

 の合計。RCは説明不要で、 Defensive Runsはもちろんこの本の主題のもの。 守備位置補正値は前述のビル・ジェイムズのメソッド。走塁得点は何気に最近まとまってきた分野で、走者としての(既にRCに含まれる盗塁を除く)安打での進塁などの評価です。ちなみに最も優秀な走者でもこの点数は10に届かないぐらい。
 わかりやすくてレベルの高い総合評価です。ただ余談ですがRCはLWTSやBaseRunsのほうが良いという意味で結構批判されているようですね。セイバーメトリクスを代表するようなスタッツですが、そのうちビル・ジェイムズ当人が使わなくなる日とか来るんでしょうか。




まとめ
 広げている風呂敷が極めて壮大かつ魅力的であるだけに「オチ」へのハードルが上がってしまったのか、ビル・ジェイムズ先生に何事も疑ってかかるようにすり込まれたセイバーメトリシャンの性なのか、ついちょこちょこ文句や疑問を挟むようなレビューになってしまいました。煮え切らない部分が少しずつ残る感じがするのは読者の贅沢なのかもしれません。
 基本的には読む価値があり強く推奨できる本であることは間違いないです。ここで取り上げたもの以外にも見るだけで価値があり勉強になるような解析が載っています。
 ところで管理人はMLBの選手について全然知らないのですが、普段MLBを見ていたらこの本の面白さが何倍に膨れ上がったことでしょうね。ここに載っているのがNPBの選手だったらと考えるとクラクラします。




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