2011.2.3
パークファクター(Park Factor、以下PF)とは、野球の試合に影響を与える球場の特性のことであり、より狭義にはそれを特定の側面について具体的に計測し数値化したものです。
野球はプレーを行う球場について厳密な定めがない競技であり、その影響もさまざまですから、純粋にプレーそのものを解析しようと思うと球場の特性による影響を定量的に把握し補正する必要があります。そのためにあるのがPFの算出式です。
要するに「○○に所属する××ってチームの4番にしてはホームラン少ないけど、○○の本拠地って相当広くてホームラン出にくい球場だよね。ホームランが少ないのは球場のせいなのかな」といった疑問が生まれたときに、実際球場による影響はどれだけなのかを具体的に計るためのものというわけです。
対象とする指標にはさまざまなものが考えられるのですが、最もよく利用される得点のPFの計算式は以下。
得点PF=(本拠地球場での試合あたり得点+失点)÷(他球場での試合あたり得点+失点)
本拠地で平均的な球場に比べて何倍の得点が記録されたかを計算することで得点が入りやすい球場かそうでないかの指標となります。自軍の本拠値とそれ以外で得点の出方が同じであればPFの値は1になりますから、1が平均的な球場を意味します。1より大きければ得点の出やすい球場で、1より小さければ得点の出にくい球場です。比較は同じリーグの中でのものですから、あるリーグの数字と別のリーグの数字を比較してもどちらが絶対的に得点の入りやすい球場かということはわかりません。
PFの式を取り扱うにあたっての注意点はいくつかありますが、以下には個人的に重要と考える6つをあげておきます。
(1) 式の仕組みとしては自軍の能力に影響を受けない
はじめに、誤解されがちなことですが、PFの式は、当該の球場を本拠地とする球団の打撃力が高いからといって高く出るというようなことはないようになっています。例えば、リーグ平均得点が4.0のときに平均5.0得点を叩き出す打線でも、本拠地で平均5.0得点、他球場で平均5.0得点であればPFの式からすると「5.0÷5.0」で1になります。4.0に比べて5.0であるという部分はPFには何も関係ないことです。実際には失点も含めて計算するわけですが同じことで、その水準が高いか低いかは基本的に関係なく、球場ごとに違いがあるかどうかだけが問題となります。
本拠地ではリーグの各チームを招いて試合をし、その他はリーグの各チームの球場のもとへ出向いて試合をすることから、本拠地の試合でもそれ以外の試合でも「半分は自軍、もう半分はほぼ均等にリーグの他のチームが試合をしている」ことは変わらず、プレーをしている選手の要素の影響を受けずに球場の違いだけが数字に反映されるようになっています。
とはいえ同じチーム同士の試合でも出場メンバーが常に同じということはなくその意味では選手という要素の影響を受けますし(特に先発投手の影響が大きいと思われます)、現状のNPBでは完全に本拠地とそれ以外で均等に各マッチアップが割り振られてもいないですし、地方球場での試合などもノイズとなりますので完全にキレイな数字と言えないことは確かです。それでも基本的には、選手の能力の違いではなく球場の違いを反映する式になっているということです。
(2) PFの値が直接成績に跳ね返るわけではない
例えば本塁打のPFで0.5という数字が出たとします。これは平均的な球場に比べて本塁打が2倍出にくいことを意味しているわけですが、ではこの球場を本拠地としてプレーした選手の年間本塁打数を2倍にすれば球場の影響を補正した数字になるかというと、そうではありません。何故なら、全ての試合を本拠地で行うわけではないからです(その選手が本拠地でだけプレーしたなら別ですが)。
仮に本拠地とそれ以外を半々でシーズンを過ごすと考えれば、本拠地の0.5と平均の1との平均をとり、「(0.5+1)÷2=0.75」という計算をすることになります。こうすると本塁打の出にくさは1.33倍ですから、2倍とではかなりの違いで、本塁打の数を1/2にするぐらい極端なことをしても選手の個人成績には意外と重大な影響を与えられないことを示しています。1.33倍の出にくさでも30本塁打が23本塁打になってしまいますから小さい影響ではないですが、0.5ほど低い本塁打PFというのは頻繁にあるものではありません。
少し丁寧に、本拠地での試合の割合などにも考慮してPFがどれだけ成績に跳ね返るか補正のための係数を算出するとすれば、次のような式が考えられます。
補正係数=PF×(本拠地試合数÷試合数)+(チーム数-PF)÷(チーム数-1)×(他球場試合数÷試合数)
本拠地で試合をした分にはそのまま本拠地のPFを適用し、それ以外での試合には自球場が平均に含まれないことへの補正(チーム数に対して1のPFがあるわけですが、仮に自球場のPFが高い場合全体の平均と比べると他の球場のPFは1より低くなるわけです)をした平均PFを掛けるという内容の式です。これは得点PFであれ本塁打PFであれ、なんにでも使えます。
(3) さまざまなものを対象に取ることができる
既に得点PFと本塁打PFには言及していますが、PFは安打でも四球でも、別のものでも球場ごとにデータがあれば対象になり得ます。なお、実際のところ多く見かけるのは得点PFと本塁打PFで、得点や安打や本塁打のPFは同じ傾向を見せることが多いようです。安打や本塁打が得点に繋がるのですからこれは自然なことです。
どのPFに注目すべきかは目的とする解析によりますが、後述のように得点のPFには結果的な価値を補正するというやや特別で有用な役割があり、内容の傾向も反映することから、当サイトでは得点PFを掲載します。また得点PFは比較的データが取りやすいです。
(4) 一年程度ではサンプルサイズが小さい
対象とする項目にもよりますが、「真のPF」を表す数字と見るには一年くらいではサンプルサイズが足りない場合が多いようです。仮に得点PFで平均得点4.4程度、本拠地と他球場で72試合ずつ、「真のPF」が1.00(本拠地も他球場も同じ)という環境を設定した場合、当方のシミュレーションではPFの標準偏差0.08が得られました。これは、実際には得点の入り方について特定の効果が存在しない球場でも一年間での得点PFが0.92や1.08ぐらいを示しても全く不思議ではない、ということを意味します(もちろん「理論上は」ですが)。ちなみに本塁打PFについて同じようなシミュレーションを行った場合、標準偏差は0.12となりました。つまり単年の数字では、例えば対象の球場が本当は得点が入りにくい球場なのにたまたまその年はそこで多く得点が記録された、ということが起こる危険が高いということです。そのときその数字を使って選手の成績を補正すると、筋違いな補正になってしまいます。
この問題に対処するためできれば複数年の数字を使い、対象とする年度に最大の重みをつけた加重平均として利用することが多いようです。
(5) 純粋な意味で球場だけが影響しているとは限らない
一口に得点PFといっても、その要因はさまざまであり数字からは不可視なものです。土のコンディションによりゴロの速度が遅く安打になりにくいのかもしれないし、広くて本塁打が出にくいのかもしれないし、バックスクリーンが眩しくて打ちにくいのかもしれないし、湿度が高く暑い気候でプレーにしくい場所なのかもしれないし、その球場までの移動が大変で体力を消耗させられるのかもしれません。さまざまなものをひっくるめて、結果として当該の球場でどういうプレーが起きたかを表すのがPFです。
また、打者の成績をPFで補正するときに「自軍の投手とは対戦しない」という要素なども含めて計算する場合があります。これはPark Factor(球場要素)というよりはEnvironment Factor(環境要素)とでも言うべきもので、そういうケースがあるということには注意が必要です。これは単に、そう呼ぶこともあるという用語の問題です。
(6) リーグ内の相対値である
PFはあくまでも、同じリーグの中の他の球場を比較対象にとって算出する指標です。従って絶対的な基準は存在せず、1980年セ・リーグのある球場と1990年パ・リーグのある球場とどちらが本塁打が出やすいかといったことを直接比較するのにPFは使えません。
PFをどう使うかは解析の内容に依存しますし色々な方法があり得ます。単純には、チームの得点能力を求める際に平均得点を前述した補正係数で割れば球場の効果を除外した数字が得られるものと思われます。
ここで言及しておきしたいのは、掲載する得点PFの「利得の価値を補正する」という意義について。
PFによる補正を行うとき、選手のパフォーマンス発揮能力を補正することを考えるのであれば、例えば本塁打PFで本塁打数を割るだとか、安打PFで安打数を割るというのが考え方として普通です。そしてこれとは別に得点の価値の補正があります。価値の補正というのは例えば、あるチームの得点率がリーグ平均の1.1倍であったとしても、得点が1.1倍入りやすい環境のプレーしていたのであれば、その分は相手も得点をとりやすいわけだから利得になっていない、という話です。補正を行わずに得点率を評価すると攻撃力が高い球団ということになってしまいますが、補正を行うと実質的な利得に迫ることができます。
選手のRCAAなどの成績を得点PFで補正するとき、仮にある球場での得点の入りやすさが本塁打の出やすさに起因する場合、本塁打で利得を稼いでいない打者の得点創出が割り引かれるということは不公平であるようにも思われるのですが、生まれた得点の価値を補正するという観点では間違いとは言えません。この意味で得点PFとそれ以外(得点の構成要素)は一応区別をつけておきその役割を理解しておくべきかと思います。
冒頭に記した (本拠地球場での試合あたり得点+失点)÷(他球場での試合あたり得点+失点) の式を用いて、NPBの得点PFを計算しました。
交流戦もそのままひっくるめたデータとなっています。
球団 | 球場 | 得点 | 失点 | 本拠地試合 | 得失点 | 本拠地以外試合 | 得失点 | パークファクター | 補正係数 |
横浜 | 横浜 | 521 | 743 | 65 | 620 | 79 | 644 | 1.17 | 1.06 |
ヤクルト | 神宮 | 617 | 621 | 66 | 600 | 78 | 638 | 1.11 | 1.04 |
巨人 | 東京ドーム | 711 | 617 | 64 | 613 | 80 | 715 | 1.07 | 1.02 |
広島 | マツダスタジアム | 596 | 737 | 68 | 613 | 76 | 720 | 0.95 | 0.98 |
阪神 | 甲子園 | 740 | 640 | 60 | 528 | 84 | 852 | 0.87 | 0.96 |
中日 | ナゴヤドーム | 539 | 521 | 69 | 452 | 75 | 608 | 0.81 | 0.93 |
球団 | 球場 | 得点 | 失点 | 本拠地試合 | 得失点 | 本拠地以外試合 | 得失点 | パークファクター | 補正係数 |
オリックス | 京セラ&スカイ | 644 | 628 | 72 | 696 | 72 | 576 | 1.21 | 1.08 |
西武 | 西武ドーム | 680 | 642 | 67 | 608 | 77 | 714 | 0.98 | 0.99 |
楽天 | Kスタ宮城 | 576 | 635 | 68 | 560 | 76 | 651 | 0.96 | 0.99 |
日本ハム | 札幌ドーム | 612 | 548 | 58 | 437 | 86 | 723 | 0.90 | 0.97 |
ソフトバンク | ヤフードーム | 638 | 615 | 69 | 564 | 75 | 689 | 0.89 | 0.96 |
ロッテ | 千葉マリン | 708 | 635 | 72 | 625 | 72 | 718 | 0.87 | 0.95 |
ちなみにパークファクターという言葉の意味からすると京セラドーム&スカイマークのようにふたつの球場をまとめて計算するのは奇妙なのですが、そもそもここで主眼としているのは「チームごとにそれぞれ異なる形で球場の影響を受けており、その影響による結果は各選手の働きではないから補正すべきではないか」という問題意識です。そこで重要なのは平均的なチームと違う形で受けている影響のその形であり、それに関しては球場がひとつかふたつかということは本質的ではありません。特定の球場の性質を暴くことがそもそもの目的ではないわけです。だとするとパークファクターという言葉はミスリーディングだという苦情はあるでしょうし、この方法が他の選択肢に比べて確固として「正しい」とも考えておりませんが。当然目的が変わればとるべき手段は変わります。
巨人:東京ドーム、阪神:甲子園、中日:ナゴヤドーム、広島:マツダスタジアム、ヤクルト:神宮、横浜:横浜スタジアム
西武:西武ドーム、オリックス:京セラドーム&スカイマーク、日本ハム:札幌ドーム、ロッテ:千葉マリン、楽天:Kスタ宮城、ソフトバンク:ヤフードーム
球団 | 球場 | 得点 | 失点 | 本拠地試合 | 得失点 | 本拠地以外試合 | 得失点 | パークファクター | 補正係数 |
横浜 | 横浜 | 497 | 685 | 65 | 605 | 79 | 577 | 1.27 | 1.09 |
ヤクルト | 神宮 | 548 | 606 | 69 | 576 | 75 | 578 | 1.08 | 1.03 |
広島 | マツダスタジアム | 528 | 575 | 67 | 504 | 77 | 599 | 0.97 | 0.99 |
阪神 | 甲子園 | 548 | 534 | 60 | 440 | 84 | 642 | 0.96 | 0.99 |
巨人 | 東京ドーム | 650 | 493 | 63 | 482 | 81 | 661 | 0.94 | 0.98 |
中日 | ナゴヤドーム | 605 | 508 | 67 | 450 | 77 | 663 | 0.78 | 0.92 |
球団 | 球場 | 得点 | 失点 | 本拠地試合 | 得失点 | 本拠地以外試合 | 得失点 | パークファクター | 補正係数 |
西武 | 西武ドーム | 664 | 627 | 68 | 642 | 76 | 649 | 1.11 | 1.04 |
オリックス | 京セラ&スカイ | 585 | 715 | 70 | 654 | 74 | 646 | 1.07 | 1.03 |
楽天 | Kスタ宮城 | 598 | 609 | 70 | 600 | 74 | 607 | 1.04 | 1.02 |
日本ハム | 札幌ドーム | 689 | 550 | 60 | 525 | 84 | 714 | 1.03 | 1.01 |
ソフトバンク | ヤフードーム | 600 | 591 | 69 | 540 | 75 | 651 | 0.90 | 0.96 |
ロッテ | 千葉マリン | 620 | 639 | 72 | 580 | 72 | 679 | 0.85 | 0.94 |
横浜スタジアム、ナゴヤドーム、千葉マリンスタジアムあたりが気になる偏りを示しています。他は全て「平均的な球場」の誤差である可能性もそこそこ高いというレベル。
昨年0.73という激しい数値だった甲子園球場は今年は平均的。個人成績への跳ね返りはほとんど考慮しなくていいぐらいです。0.86だった札幌ドームも平均的に。今年は横浜スタジアムが得点が増えるほうで結構な数字で、平均的な球場の1.27倍ということは得点率4点の打線が得点率5点の打線に変貌する球場ということです。
なお、広島の「新球場」はひとまずほぼ平均的な球場としてデビューしたということになりますね。
巨人:東京ドーム、阪神:甲子園、中日:ナゴヤドーム、広島:広島市民、ヤクルト:神宮、横浜:横浜スタジアム
西武:西武ドーム、オリックス:京セラドーム&スカイマーク、日本ハム:札幌ドーム、ロッテ:千葉マリン、楽天:Kスタ宮城、ソフトバンク:ヤフードーム
球団 | 球場 | 得点 | 失点 | 本拠地試合 | 得失点 | 本拠地以外試合 | 得失点 | パークファクター | 補正係数 |
横浜 | 横浜 | 552 | 706 | 65 | 610 | 79 | 648 | 1.14 | 1.05 |
広島 | 広島市民 | 537 | 594 | 66 | 551 | 78 | 580 | 1.12 | 1.04 |
巨人 | 東京ドーム | 631 | 532 | 63 | 525 | 81 | 638 | 1.06 | 1.02 |
中日 | ナゴヤドーム | 535 | 556 | 67 | 507 | 77 | 584 | 1.00 | 1.00 |
ヤクルト | 神宮 | 583 | 569 | 65 | 513 | 79 | 639 | 0.98 | 0.99 |
阪神 | 甲子園 | 578 | 521 | 61 | 383 | 83 | 716 | 0.73 | 0.92 |
球団 | 球場 | 得点 | 失点 | 本拠地試合 | 得失点 | 本拠地以外試合 | 得失点 | パークファクター | 補正係数 |
ロッテ | 千葉マリン | 662 | 648 | 72 | 689 | 72 | 621 | 1.11 | 1.04 |
楽天 | Kスタ宮城 | 627 | 607 | 70 | 616 | 74 | 618 | 1.05 | 1.02 |
西武 | 西武ドーム | 715 | 626 | 68 | 648 | 76 | 693 | 1.05 | 1.02 |
ソフトバンク | ヤフードーム | 556 | 641 | 68 | 544 | 76 | 653 | 0.93 | 0.97 |
オリックス | 京セラ&スカイ | 637 | 605 | 70 | 577 | 74 | 665 | 0.92 | 0.97 |
日本ハム | 札幌ドーム | 533 | 541 | 59 | 401 | 85 | 673 | 0.86 | 0.96 |
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