打者のタイプ分析

2010.1.31

by Baseball Concrete

1.タイプと類似性

 今回の試みは、ふたつの先行する研究に触発されたものです。

 ひとつはDIPSについて調べたときに読んだTom Tippettによる"Can pitchers prevent hits on balls in play?"という論文。これはDIPSについて研究したものですが、終盤では「三振を奪う能力に長けることで生き残った投手もいれば、四球を出さないことで生き残った投手もいれば、被安打を低く抑えることで生き残った投手もいる。活躍の仕方は様々だ」ということを示す内容になっており、言っていることはまぁ常識的に当たり前のことなのですが、何か人間的で面白い研究結果となっています。

 もうひとつはBill JamesによるSimilarity Scoresという指標。これはある選手ともう一人の選手の通算成績を比較して両者の成績がどれだけ似通っているかを点数で表すものです。これを使うと似た選手がわかってなんだか面白いというだけでなく、現役の選手の成績を見て、その年齢までに同じような成績を残した過去の選手がどういう経過を辿ったかで現役選手の未来を占うということができます。選手はひとりひとり違いますし競技の内容も実質的には変わってきていますから過去だけで完全に未来がわかるわけではありませんが、野球選手の経過には一定のパターンがあることも事実のようです。

 

 以上から考えたことは

 ということです。

 

2.成績を特性別に偏差値化する

 というわけで数値化するのですが、「タイプを見てみよう」という試み自体の性格もあり、あまり実利や分析としての意味を重視しないゲームのような数値化をやりたいと思います。公式記録から分けられる特性ということで以下の5項目を算出し、標準偏差を10、平均を50とする偏差値に変換しました(数字の見方は学力偏差値と同じになります)。

 巧打はBABIPで、BABIPを巧打と呼ぶことには抵抗があるのですが投手のそれに比べれば打者ごとのBABIPはまだスキルのみなしやすい面があります(それでも運の影響が強いですが)のでわかりやすさのために。それぞれの算出式にさほどこだわりはありません。

 どういう数字が出てくるかというと、例えばこんな感じになります。

 

選手コンタクト巧打長打 選球走力
ラミレス53 64 59 33 36
内川 聖一61 62 52 45 45
小笠原 道大42 67 62 57 44
坂本 勇人49 69 51 45 56
井端 弘和60 66 39 61 53

 

 2009年度セ・リーグの打率上位5人。50以上であれば当該の能力が平均以上で、60を超えると頭ひとつ抜けるという感じになります。

 ラミレスであれば、長所は打球を上手くヒットにすることとパワーでスタンドに放り込むこと、そして並よりちょっと三振しないことであり、逆に短所は四球を選ばず足が遅いことになります。

 次の内川もわりと近い傾向でコンタクト・巧打・長打で優れており、選球と走力は並といった内容。井端はこの5人の中で唯一長打力が並以下の打者であり、その代わりコンタクト・巧打・選球で非常に良い特性を見せています。

 

選手コンタクト巧打長打 選球走力
鉄平58 63 49 51 57
坂口 智隆58 64 40 49 60
サブロー32 69 61 50 52
長谷川 勇也53 65 44 55 50
高橋 信二58 60 40 39 54

 

 こちらはパ・リーグの打率トップ5。鉄平のバランスの良さがよくわかるし、坂口が日本の一番打者らしいこと、高橋信二が四番打者っぽくないことがわかります。

 

 さて、ここで、ラミレスと内川が似ていることはパッと見でわかったのですが小笠原や井端とは異なるタイプであるように思われます。どちらにより近いのか簡単な計算で求めてみましょう。まずラミレスのコンタクトと小笠原のコンタクトは9ポイント離れています。そしてラミレスの巧打と小笠原の巧打は3ポイント離れています。そしてラミレスの長打と小笠原の長打は3ポイント……という計算をしていき項目ごとの乖離の平均をとると、選手として活躍の仕方がどれだけ違うかがわかります。この数字を差異点数としましょう。差異点数が小さいほど似ている選手であるということになります。ラミレスと小笠原の差異点数は9.6で、これはわりと小さめの数字です(=似ている選手)。

 一方ラミレスと井端の差異点数は14.7です。従って、この算出ではラミレスは井端よりも小笠原に似ている、ということになります。ちなみにラミレスと内川の差異点数は7.6です。

 

 今度は内川を例にとって、規定打席到達打者の中で最も似通っている打者は誰か、ということを見てみます。パ・リーグも対象に含めるとして、内川に最も近い選手は楽天の草野大輔(差異点数:4.0)で、次に近い選手は宮本慎也(差異得点:4.9)でした。

 

選手コンタクト巧打長打 選球走力内川との差異点数
内川 聖一61 62 52 45 45 0.0
草野 大輔62 56 42 45 47 4.0
宮本 慎也59 60 43 35 43 4.9
スレッジ37 41 66 64 31 18.6

 

 長打力にやや差が見られますが、内川も草野も選球と走力は平均以下程度でありながら三振せず上手くヒットを打つことで活躍している選手だということはやはり似ています。宮本も同様。ちなみにスレッジは逆に最も似ていない打者です。三振するし巧打力はないけれども球を選びつつたまの長打でガツンとやるタイプというわけですね。

 

 2009年度規定打席に到達した打者について、タイプを表す数字と最も似ている選手、最も似ていない選手、そして他の選手との差異点数の平均を示します。平均差異点数が高い打者は、他の選手とあまり似ていないユニークな選手であることになります。

 

選手コンタクト巧打長打 選球走力類似選手差異点数 対極選手差異点数平均差異点数
ラミレス53 64 59 33 36 金子 誠6.3 赤松 真人 20.2 13.3
内川 聖一61 62 52 45 45 草野 大輔 4.0 スレッジ18.6 10.5
小笠原 道大42 67 62 57 44 G.G.佐藤5.2 片岡 易之23.4 12.3
坂本 勇人49 69 51 45 56 糸井 嘉男4.8 スレッジ 19.6 11.0
井端 弘和60 66 39 61 53 長谷川 勇也4.5 田上 秀則 23.6 12.1
青木 宣親59 57 47 66 53 井端 弘和4.6 田上 秀則 21.0 10.9
和田 一浩62 44 57 59 40 松中 信彦3.3 福地 寿樹18.7 11.1
宮本 慎也59 60 43 35 43 高橋 信二 3.8 中村 剛也21.3 11.3
東出 輝裕69 55 35 45 58 草野 大輔5.0 スレッジ 24.5 12.8
阿部 慎之助41 46 69 53 42 ガイエル 4.9 片岡 易之20.7 12.0
亀井 義行53 47 57 50 55 栗山 巧3.5 大村 直之 15.7 9.0
森野 将彦49 54 59 62 48 稲葉 篤紀2.6 片岡 易之19.3 10.1
鳥谷 敬53 52 53 59 53 稲葉 篤紀2.5 大村 直之 16.9 9.0
ブランコ27 55 69 55 49 中村 剛也4.9 片岡 易之24.1 13.9
関本 賢太郎54 53 41 59 50 福浦 和也 2.5 田上 秀則18.1 9.3
福地 寿樹49 55 39 40 72 平野 恵一3.9 スレッジ 23.7 12.7
平野 恵一57 53 37 43 67 本多 雄一3.0 スレッジ 23.5 11.9
荒木 雅博59 50 36 37 72 平野 恵一3.2 スレッジ 25.5 13.8
ガイエル35 42 69 65 41 スレッジ3.2 荒木 雅博24.6 14.7
金本 知憲46 39 57 68 39 松中 信彦4.5 荒木 雅博 21.7 12.6
新井 貴浩54 37 49 40 55 大松 尚逸 3.4 中村 剛也19.0 10.1
田中 浩康60 39 42 48 51 大松 尚逸 2.9 中村 剛也19.1 10.1
栗原 健太52 32 52 52 48 大松 尚逸4.0 大村 直之16.9 10.3
川島 慶三47 41 45 48 48 小久保 裕紀3.5 中村 剛也14.9 9.0
吉村 裕基33 49 52 52 47 マクレーン5.0 片岡 易之18.1 10.3
相川 亮二50 40 43 38 32 フェルナンデス 4.4 中村 剛也20.9 12.1
マクレーン30 43 57 54 37 里崎 智也2.7 荒木 雅博 21.5 12.7
石川 雄洋41 49 38 33 49 小谷野 栄一 6.1 スレッジ18.0 11.8
赤松 真人46 33 42 47 68 川崎 宗則 5.9 中村 剛也21.0 12.8
鉄平58 63 49 51 57 坂口 智隆2.7 スレッジ 20.0 10.3
坂口 智隆58 64 40 49 60 鉄平 2.7 スレッジ22.6 11.2
サブロー32 69 61 50 52 糸井 嘉男5.4 大村 直之 24.0 13.6
長谷川 勇也53 65 44 55 50 関本 賢太郎 4.0 田上 秀則19.1 9.9
高橋 信二58 60 40 39 54 宮本 慎也3.8 スレッジ 22.5 10.7
中島 裕之48 60 53 62 57 稲葉 篤紀3.9 大村 直之 20.7 10.5
糸井 嘉男44 63 59 49 58 坂本 勇人4.8 大村 直之 20.9 11.1
草野 大輔62 56 42 45 47 内川 聖一 4.0 スレッジ19.8 10.0
金子 誠50 59 51 35 48 小谷野 栄一3.0 スレッジ18.2 10.2
稲葉 篤紀50 56 54 59 49 鳥谷 敬2.5 大村 直之17.5 9.1
小谷野 栄一52 57 47 32 51 金子 誠3.0 スレッジ 20.5 10.6
大村 直之72 48 35 30 39 宮本 慎也8.5 中村 剛也 25.4 15.7
G.G.佐藤40 56 59 46 44 小笠原 道大 5.2 片岡 易之19.1 10.6
中村 剛也26 49 84 53 47 ブランコ4.9 片岡 易之26.1 16.9
田中 賢介52 56 41 60 63 関本 賢太郎4.0 田上 秀則 21.4 10.9
オーティズ49 45 56 44 43 小久保 裕紀4.0 井端 弘和 15.2 9.3
井口 資仁43 52 54 72 48 森野 将彦4.6 片岡 易之21.0 11.8
松中 信彦54 41 53 61 41 和田 一浩3.3 福地 寿樹17.2 10.3
渡辺 直人59 50 37 58 71 平野 恵一4.5 田上 秀則 23.3 12.7
福浦 和也56 47 40 56 48 関本 賢太郎 2.5 田上 秀則16.6 9.2
大松 尚逸56 39 51 47 50 田中 浩康2.9 中村 剛也 16.4 9.2
栗山 巧51 47 44 51 55 亀井 義行 3.5 スレッジ15.8 8.8
小久保 裕紀51 42 48 53 43 川島 慶三 3.5 荒木 雅博14.4 8.9
スレッジ37 41 66 64 31 ガイエル3.2 荒木 雅博 25.5 15.4
本多 雄一54 48 39 43 62 川崎 宗則2.3 スレッジ 20.6 10.5
フェルナンデス54 38 49 41 39 新井 貴浩 3.7 中村 剛也18.6 10.4
片岡 易之64 37 45 37 72 荒木 雅博5.4 中村 剛也 19.1 14.8
西岡 剛55 39 49 64 54 松中 信彦4.7 中村 剛也 18.3 10.5
川崎 宗則55 45 41 47 61 本多 雄一 2.3 中村 剛也19.3 10.0
田上 秀則35 38 57 36 31 相川 亮二6.9 井端 弘和 23.6 14.7
山崎 武司46 26 64 56 37 金本 知憲6.9 荒木 雅博 23.6 14.5
里崎 智也30 45 48 56 36 マクレーン 2.7 片岡 易之20.2 12.5

 

3.傾向として現れるグループ

 選手たちの能力値や差異点数を眺めているとそれだけでなかなか面白いのですが、こうして見てみると選手のタイプの違いにはある程度まとまりがあってグループが作られていることが明確にわかります。

 具体的には、コンタクト・走力に秀ていてとにかく当てて走るタイプのいわばスモールボールクラブと、長打・選球に秀でていてじっくりボールを選び強く叩くというビッグボールクラブ、そしてその中間、の3つグループです。スモールボールクラブのメンバーとビッグボールクラブのメンバーは互いに「最も似ていない選手」に指名しあっている様子がはっきり出ています。※本当は「スモールボール」「ビッグボール」をこういう使い方するのは間違っていると思われるのですが、ご容赦下さい。

 コンタクト・走力の優秀さから見ると、スモールボールクラブには以下のような選手たちがいます。

 

選手コンタクト巧打長打 選球走力類似選手差異点数 対極選手差異点数平均差異点数
片岡 易之64 37 45 37 72 荒木 雅博5.4 中村 剛也 19.1 14.8
荒木 雅博59 50 36 37 72 平野 恵一3.2 スレッジ 25.5 13.8
東出 輝裕69 55 35 45 58 草野 大輔5.0 スレッジ 24.5 12.8
平野 恵一57 53 37 43 67 本多 雄一3.0 スレッジ 23.5 11.9
坂口 智隆58 64 40 49 60 鉄平 2.7 スレッジ22.6 11.2
本多 雄一54 48 39 43 62 川崎 宗則2.3 スレッジ 20.6 10.5
川崎 宗則55 45 41 47 61 本多 雄一 2.3 中村 剛也19.3 10.0
田中 浩康60 39 42 48 51 大松 尚逸 2.9 中村 剛也19.1 10.1

 

 打順で言うと一番や二番を打つ選手が多いという雰囲気。

 長打・選球の傾向から見ていくとビッグボールクラブのメンバーが出てきます。

 

選手コンタクト巧打長打 選球走力類似選手差異点数 対極選手差異点数平均差異点数
中村 剛也26 49 84 53 47 ブランコ4.9 片岡 易之26.1 16.9
ガイエル35 42 69 65 41 スレッジ3.2 荒木 雅博24.6 14.7
スレッジ37 41 66 64 31 ガイエル3.2 荒木 雅博 25.5 15.4
井口 資仁43 52 54 72 48 森野 将彦4.6 片岡 易之21.0 11.8
金本 知憲46 39 57 68 39 松中 信彦4.5 荒木 雅博 21.7 12.6
ブランコ27 55 69 55 49 中村 剛也4.9 片岡 易之24.1 13.9
阿部 慎之助41 46 69 53 42 ガイエル 4.9 片岡 易之20.7 12.0
森野 将彦49 54 59 62 48 稲葉 篤紀2.6 片岡 易之19.3 10.1
山崎 武司46 26 64 56 37 金本 知憲6.9 荒木 雅博 23.6 14.5
小笠原 道大42 67 62 57 44 G.G.佐藤5.2 片岡 易之23.4 12.3
マクレーン30 43 57 54 37 里崎 智也2.7 荒木 雅博 21.5 12.7

 

 中村剛也・ガイエル・スレッジらの振れ方は相当なものです。そもそも中村剛也、長打力の偏差値84ってそれ。

 最後は、これといって偏った特徴のないバランスクラブ。

 

選手コンタクト巧打長打 選球走力類似選手差異点数 対極選手差異点数平均差異点数
鳥谷 敬53 52 53 59 53 稲葉 篤紀2.5 大村 直之 16.9 9.0
川島 慶三47 41 45 48 48 小久保 裕紀3.5 中村 剛也14.9 9.0
稲葉 篤紀50 56 54 59 49 鳥谷 敬2.5 大村 直之17.5 9.1
亀井 義行53 47 57 50 55 栗山 巧3.5 大村 直之 15.7 9.0
栗山 巧51 47 44 51 55 亀井 義行 3.5 スレッジ15.8 8.8
小久保 裕紀51 42 48 53 43 川島 慶三 3.5 荒木 雅博14.4 8.9
大松 尚逸56 39 51 47 50 田中 浩康2.9 中村 剛也 16.4 9.2
福浦 和也56 47 40 56 48 関本 賢太郎 2.5 田上 秀則16.6 9.2
関本 賢太郎54 53 41 59 50 福浦 和也 2.5 田上 秀則18.1 9.3

 

 川島は少し能力の高さ自体が劣るので微妙ですが、鳥谷や稲葉のまとまり方はハンパないです。これらの選手は偏りがないため、実際「一番を打たせても面白いし、クリーンアップを打つこともできる」という感じの選手が多いように思います。

 

4.最後に

 私がセイバーメトリクスを勉強しはじめて一番すごいと思ったのは、数値化が恣意的ではなくあらゆるものを得点という単位に乗っけて評価をし実利を出すところです。そういう意味では、今回の試みは実利的なものではありません。すなわち、ある数値がどれだけ傑出しているかを見ているだけで、それがどれだけ勝利の役に立っているのかということは考慮していないわけです。ですから、例えばここの数字を使って「コンタクト+巧打+長打+選球+走力」で貢献度の高さが表せるかというとそういうことはありません。その点は注意して頂きたいと思います。

 やり残していることとしては投手についてや通算成績に当てはめての算出ですが、それはまた気が向いたら、ということで。

 

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