選手評価の基礎

by Baseball Concrete

1.選手個人の貢献度を評価する

 本ページでは、選手評価の基礎、前提となる理論を説明していきます。ここでいう選手評価とは、選手の働きをチームの勝利への貢献度という観点から定量的に評価することです。

 はじめに要点を述べると、選手評価手法の基本は「個人成績の中から責任範囲を抜き出して得点に換算する」ことに尽きます。打者でも、投手でも、基本的には全てこの考え方で説明できます。

 

2.勝率と得失点の相関関係

 選手の働きを得点に換算して評価することの前提として、得点(及び失点)というものが野球においていかに大切であるかを確認しておきます。

 まず、公認野球規則は、1.05に「各チームは、相手チームより多くの得点を記録して、勝つことを目的とする」と定めています。言うまでもないことのようですが、野球は相手チームよりも多くの得点を記録することで勝利となるスポーツなわけですから、攻撃においてはより多くの得点を、守備においてはより少ない失点を追い求めることが勝利の追求になります。

 そうして毎試合を戦っていけば、当然トータルの失点に対してトータルの得点が多いチームは優勝する可能性が高いことになります。このことの統計的な裏付けとして、シーズンにおける得失点差(年間総得点から総失点を引いたもの)と勝率の相関関係を確認します。

 上記のグラフは横軸に試合あたりの得失点差、 縦軸に勝率を設定した散布図で、サンプルは1950年から2009年までのNPB全チーム(述べ735チーム)です。グラフははっきりした右肩上がりになっており、要するに得失点差を多くすればそれに従って勝率が高くなることが統計上も明確に表れています(ルールからしてほとんど当然のことですが)。両者の関係の強さを示す統計的な指数である決定係数は.88であり、これは勝率の高さの約9割は得失点差の大小で説明できることを意味します。

 ビル・ジェイムズは、この関連性を利用してピタゴラス勝率(野球版ピタゴラスの定理)という計算式を生み出しています。

 ピタゴラス勝率=得点の二乗÷(得点の二乗+失点の二乗)

 ピタゴラス勝率はセイバーメトリクス初期の発明ですが現在でもその有用性は高く評価されており、特に得点と失点への影響によって選手を評価することの妥当性を支える基礎理論としてその重要性は際立っています。とりわけ、個々の試合状況を考慮せずに年間の合計値でこのような議論ができる点は興味深いです。

 またピタゴラス勝率にあてはめれば、どれだけの得点の増加がどれだけの勝利の増加を生むのかという単位の変換も可能となります。もっとも、この点についてはおおむね「10点で1勝」という大原則があり、難しいことを考えなくても得失点差が10点増えれば勝利が1つ増えると考えておいて大きな間違いはありません。

得点を勝利に換算する

 得失点差の改善は「得点を増やす」ことと「失点を減らす」ことに分解することができます。このうち得点を増やすのに関わる活動は打撃と走塁であり、失点を減らすのに関わる活動は投球と守備です。得点と失点で勝率が決まるというピタゴラス勝率を理論的な基礎として、ではそれぞれの活動がどれだけ得点を増やし、失点を減らしているかを評価していくという形で選手評価論の体系は成り立っています。

 

3.得点換算による評価

 では、選手の働きはどのようにすれば「得点を増やした」「失点を減らした」という数字に落とし込むことができるでしょうか。

 ここで登場するのが「基本的な考え方」のページで説明している得点期待値と得点価値です。得点期待値・得点価値の重要性はいくら強調しても足りません。得点期待値があらゆる事柄の度量衡・測定手段となります。『マネー・ボール』の中には得点は野球の試合におけるお金のようなものだという比喩が出てきますが、まさに言い得て妙で、スーパーに並ぶ商品全てに値札が付いているように、グラウンド上のプレーも片っ端から得点という値札を付けることによって比較や総合が可能になります。

 前述の選手評価論の体系にあてはめてみましょう。打撃が得点に与える影響は当然Batting RunsあるいはwRAAで評価できます。そして走塁に関しても、盗塁は例えば二死一塁から二死二塁への塁状況の変化として得点期待値の変化を測定すれば得点の意味での価値がわかります。守備に関してもひとつのヒットをアウトにすることの価値は打撃の評価を裏から見る形で得点で表せますし、投手が奪三振や与四球でどれだけ失点の見込みを増やしたかも測定できます。得点期待値という装置が全てを比較可能な得点という土俵に上げてくれます。

 こうした得点換算による分析は、従来感覚的に行われてきた「○○のバッティングは当代随一だ」「しかし××の守備はチームの支えになっている」「エースの△△が試合を作ってこそのこのチームだ」といった議論に対して定量的で意味のある基準を提供することができます。どんな仕事であれ、それが得点・失点にどのような影響を与えたのかを計測することができるし、得点が増えれば(失点が減れば)ピタゴラス勝率によって勝利が増えるわけで、重要なのはそれだけです。

 あとは、どのような働きが誰に責任のある働きなのかを整理し、それをなるべくうまく拾い上げて得点に換算していくという作業になります。このあたりの細かい部分は各評価のページで詳しく見ていきます。

 

4.個人の責任範囲と状況中立性

 従来的な記録には得点を単位とする打点もありますが、これもやはりセイバーメトリクスでは採用されません。その理由は多く稼げるかどうかが前を打つ打者や巡り合わせに依存する部分が大きく、個人の責任範囲を抜き出していないからです。得点という単位そのものは反映していますが評価として公平でないため個人間で貢献度をうまく比較することができません。

 極端に言えばどんな強打者でもランナー無しから満塁ホームランは打てませんがホームラン自体は個人の打席の結果として自分の力だけでもたらすことができます。この意味でも打点を使わずに安打などの結果を積み上げて評価することのほうがより公平であることがわかります(もちろん安打や四球などの打席の結果にもチームメイトなどの影響は多少はあるでしょうが、打点よりは少ないと言えます)。

 打点に関するこのような検討から、選手の貢献度評価は原則として状況に対して中立的であるべきという一般理論も導かれます。打撃の内容が同じような二人の打者を比較するときに、走者がいる状況で打席入ることが多かった打者とそうでない打者を比較して前者の方が打点が多いからその打者がチームの得点を増やしているという理解は個々人の働きの評価として偏りがかかっており有益ではありません。それはむしろ出塁した前の打者らが生み出した得点であり、異なる状況が与えられれば打点の数字は変わっていたはずだからです。このように選手の評価はプレーをとりまく状況に依存せず中立的でなければならないことがわかります。

 また、得点期待値といった統計をこねくりまわした抽象的な数字ではなく打点は事実として入った点だから重視すべきだという意見もありますが、打点は「その打者が打った打席でチームが得点を入れた」という「事実」は反映していても得点をその打者に割り当てるというのは打点の開発者が定めた恣意的な基準に過ぎずそれは客観的な必然という意味での事実では全くないという反論があります。

旧来の指標とセイバーメトリクス

仮想的な数字と現実

 

5.貢献度と真の能力

 ここで論じている「貢献度」というのは、「真の能力」とはかなり異なるものです。セイバーメトリクスによって選手の貢献度を評価するとき、真の能力そのものは問題にしていない場合が多いです。真の能力というよりはむしろ、「結果的なパフォーマンス」とでもいうべきものを問題にしています。

 前提として、結果としてもたらされる成績・結果は選手の本当の能力だけによって決定されるわけではありません。例えば打者の打率にしても、球場や相手投手など外的な要因の影響を受けていますし、細かくは説明しきれない小さいランダムな要素(運としか呼びようがないもの)も関わってきます。

 観測された結果=真の能力+系統的な誤差(バイアス)+ランダムな誤差(運による変動)

 系統的な誤差というのはクリーンアップを打つ打者のほうが1番打者よりも打点を稼ぎやすいといった一貫した傾向のある外的な影響のことであり、公平な評価のためにこれは補正などによって除去しなければなりません。残るのは「真の能力+運」ですが、実はこれが貢献度として評価されるパフォーマンスとされることが一般的です。

 真の能力こそが最も重要であるようにも思えますが、必ずしもそうではありません。チームの目的は勝利(優勝)であり、それが偶然的な要因によってもたらされたものであろうが、選手によって得点が増え(失点が減り)、それによりチームの勝利が増えたのであれば貢献度という観点からは評価して差し支えありません。例年本塁打一桁の選手がある年30本を打つ活躍をして翌年からはまた一桁に戻ったとすると、30本の年はまぐれだった可能性も高いです。しかし外的な要因ではなくまさにその選手によって本塁打30本分の利益がもたらされたわけですから、そのことの勝利への貢献度としての価値にはケチをつける必要はありません。

 セイバーメトリクスにおいて選手の真の能力を推定するのは、過去の貢献度の評価ではなく未来の予測をする場合です。これは成績予測という分野の問題であり、選手評価論とは別で多数の研究の蓄積があります。

 

もたらされた結果と真の能力

指標の信頼性と平均への回帰

2011年度成績予測

→「成績予測の考え方」『セイバーメトリクス・リポート2』

 

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