投手評価
投手を数字で評価する
 投手の基本的な実績を評価する際、打者でのRCのような複雑な式を立てる必要はありません。“個人の責による得点(失点、自責点)”が現実に記録されているからです。打者の場合一人で打線を構成するわけにいかないので個人の働きが得点数でどのくらいになるかは式を構築して推定するしかないわけですが、マウンドに立ち続ける投手にはそれは不要ということです。厳密には“投手個人の責”とみなせる部分には議論の余地がありますが。




防いだ失点、RSAA
 防御率及び失点率は、走者の引き継ぎについての定義などの問題を除けば実績の評価としては完全とも言えるものです。各投手の働きの違いについての非常に具体的な数値です。
 それを利用して「同じイニング数をリーグの平均的な投手が投げる場合に比べてどれだけ失点を防いだか」を表したのがRSAA(Runs Saved Above Average)。詳しい状況性を考えなければ失点はできるだけ少なくイニングはできるだけ多く投げている投手を優秀と見るのはわかりやすく筋の通った評価だと思いますし、何よりも「点を取られなかった」という実利を極めて明確に表します。

 RSAA = (リーグ失点率−失点率)/9×投球回

 リーグの平均失点率が4.5だとすると90イニングに45失点が見込まれます。このとき90イニングを40失点で凌げば5点のプラスの評価になります。失点をさせない能力が高く、かつ多くのイニングを投げられる投手が高く出る指標。
 また、多少後述しますがどちらかと言えば先発投手に適用するのに向いた指標であると思います。


 ■ちょっと私案■
 RSAAはリーグの平均的な失点率との比較になります。この場合、失点率がリーグ平均と同じ様な投手だとイニング数を多く投げようとも出力される数値はゼロに近いものにしかならず貢献がよくわかりません。単に見方の問題ですからそれを指標の欠点と言うのは適切でないと思いますが、平均的な投球で試合を作ることにも価値があるはずでそこを積極的に表したいと考えるのも自然なことと思います。
 そこでRSAAと同じく少ない失点でできるだけ多くのイニングを投げることを評価するものの評価が積み上げられていく簡単な指標を作ってみました。既にこのようなものが使われているのかどうかわかりませんが。

 (投球イニング/9)×{リーグ失点率^2/(リーグ失点率^2+対象投手の失点率^2)}

 平均的な打線をバックに投げたとした場合何勝が期待されるかを表します。2乗が出てくるところは野球版ピタゴラスの公式といわれる勝率を見積もる計算で、それを投球回を試合数に直した単位にかけて勝利数とします。互いのチームの得失点が釣り合う場合勝率5割と考えられますので、失点率が平均と全く同じ投手でも144回(16試合完投分)投げた場合8勝の評価が与えられます。
 普通の「勝利」よりも状況に左右されずに素直に実績を表すことになると思います。これをひとまず「期待勝利」と置き、RSAAと合わせて先発投手中心の評価としてまとめてみました。

 →RSAA、期待勝利評価




守備から独立した投手評価、DIPS
 投手には「自責点」というものが記録されているわけですが、失策といったものに拘らず守備の影響を考えれば自責点も本当に投手の責任かどうかは怪しいものです。野手がポジショニングを間違えたがために簡単なフライを捕球できずに(失策はつかずに)安打にしてしまうかもしれないし、普通ならば九分九厘安打になる当たりをたまたま好捕してくれるかもしれません。
 「今のは不運だったな」とか「野手に助けられた」といったコメントは選手の側からもファンの側からもよく聞かれるものですが、それでも具体的な線引きがあるわけではなく、従来は安打を多く打たれるのは悪い投手、打たせないのは良い投手となんとなく言われてきました。
 これに対してひとつ明確な視点を持ち込んだのがボロス・マクラッケンという人物です。マクラッケンは投手の成績から守備が関与しない「被本塁打・与四死球・奪三振」の3つの項目を抜き出しました。同じグラウンド上でプレーしている以上全く関与していないとも言えませんが、程度が甚だしく小さく無視できるものとします。
 するとそれらの項目だけで優秀な投手をランク付けすることが可能だと気付き、以下の仮説を立てました。

 《ホームラン以外のフェア打球は、ヒットになろうとなるまいと、投手には無関係なのではないか?》

 《いままで投手の責任と見られていた部分が、じつはただの運なのではないか?》

 従来の常識からするとかなり極端な仮説です。しかし、実際に「ホームラン以外のフェア打球が安打になる確率」は同じ投手でも年度ごとに非常に不安定であり、投手が何らかの確かな能力で制御しているとするならばこれはおかしなことになります。守備の影響というよりも、打球の飛び方というのは単に気まぐれなのかもしれません。逆に野手の関与しない被本塁打率・与四死球率・奪三振率は安定しています。
 この説が発表された当初は「まったくばかげている」という抗議が殺到したそうですがビル・ジェイムズを含めこの説を根本的に否定できる者はなく、DIPS(守備から独立した投手数値)という考え方及び指標が一般に定着しました。
 タンゴタイガーの開発したFIPという指標を使うと、簡単にDIPSの考え方に基づいて守備から独立した防御率を導き出すことができます。

 FIP = (13×被本塁打+3×(与四球−故意四球+与死球)−2×奪三振)/投球回+3

 もちろんDIPSに含まれない部分が完全にただの運とは言い切れませんし扱いに注意が必要な面はありますが、投手単独の力量を見る指標のひとつとして高い有用性があると思いますし、この形の指標を使うか否かに関わらず野球を見る上で非常に重要な視点であると思います。投手がある年突然素晴らしいピッチングを見せたかと思えば翌年滅多打ちにされたというようなケースなど、被本塁打率・与四死球率・奪三振率にさしたる変化はなく被安打の出方が違っただけという場合もあります。
 DIPSに表れない「打たせて取るピッチング」とはなんなのでしょうか。試しに巷で打たせて取る能力があると言われていそうな投手を少し抜き出して2008年までの通算のBABIP(ホームラン以外のフェア打球が安打になる確率、全体の平均は3割程度になる)を計算してみました。顔ぶれは管理人がなんとなくで選んだもので検証としての意味はありませんが参考として。無論探せば例外的な数値を出す投手はいます。

インプレー安打インプレー打球BABIP
石川雅規1111 3641 .305
川上憲伸1374 4684 .293
小宮山悟2143 6916 .310
下柳剛1490 4948 .301
高橋尚成981 3299 .297
渡辺俊介898 3232 .278
 BABIP (安打−本塁打)/(打数−本塁打−三振)

 各投手年度ごとに結構バラつきながら、通算では似たような範囲に落ち着いています。これは丁度コイントスなどランダムなものが試行を重ねるごとに裏表1:1の割合に落ち着いていく様子に似ているようにも見えます。仮にサンプル数を積んだ通算の数字がそれぞれの実力でそこにはあまり差がなく、年度ごとのブレが単なる運だとすると、その要素を排除して評価するDIPSに説得力が出ることになります。
 当サイトではマクラッケンによる式を勝手に少し変えて、年度の主な投手のDIPSを算出しました。

 →DIPS評価




リリーフの評価、ERC
 防御率及び失点率がある種完全な指標であるので複雑な式の構築は不要、と最初に書いたわけですが、それが適用しにくいケースもあります。リリーフ投手がそれです。
 大きいのがサンプル数や走者引き継ぎの問題。失点というのはそう多く出現するものではないので特にイニング数が少ない場合揺らぎが大きくなります。例えば失点率2.48と3.15ではそれなりの違いを感じるかもしれませんが40投球回なら3失点の差です。3くらいは、打たれ方の順番とかちょっとしたあやで簡単に変動しますのでここに詳しい能力の違いを見ることは難しそうです。また先発投手から引き継いだ走者を帰してしまったかどうかの差も、自責点には表れないところですがリリーフの能力としては重要な部分です。
 そのようにリリーフ投手にとってやや気まぐれになる失点の出現。そこで、失点数ではなく打者のように打席の結果をベースにして評価するERC(Component ERA)という指標を合わせて見るという手があります。

 ERC = (被安打+与四球+与死球)×PTB/(打者×投球回)×9−0.56
 ERCが2.24以下 = (被安打+与四球+与死球)×PTB/(打者×投球回)×9×0.75
  PTB = 0.89×(1.255×(被安打−被本塁打)+4×被本塁打)+0.56×(与四球+与死球−故意四球)

 被打撃成績を見ることによって、要するに「打たれなかった投手」を優秀とするわけです。場合によってはリリーフ投手はこちらのほうが普通の防御率よりも見やすいと考えられる他、先発投手に適用すると被出塁の集中の気まぐれを排除した防御率と見ることができるかもしれません。被打撃成績をベースに防御率(ERA)の形を組み上げるといっても、DIPSとは根本的に異なるものだと思います。
 ここではリリーフ投手向きの指標であると考え、投手成績からリリーフ投手と判断されるものを抜き出して評価しました。

 →リリーフERC評価

 そしてリリーフ投手の評価が難しいのは投球の目的の問題。先発投手は基本的にはできるだけ長い回をできるだけ少ない失点で投げることを目的としていると思いますが、リリーフ投手の場合は投入された時点で目指すところが様々です。自責点がつかなくても走者を帰した時点で許されないという場合もあれば、2失点までは許される代わりに3失点以上を許さないような選択(が実際に可能かどうかはともかく)をするといった場合もあるかもしれません。そのように状況が様々になってくると単純にどのくらい失点がついたかという評価は意味が薄れてくるかと思います。ましてやRSAAが表すような「他の投手と比べてできるだけ多く……」というよりは、あえて登板の絶対数を少なくしてでもここぞという場面で抑えることでチームに高い利益をもたらしている投手もいるでしょう。そういった投手の成績を普通の先発投手の成績と単純比較はできません。このことについては勝利期待値を利用した評価などが対応策としてあるようです。終盤僅差のワンアウトというのは試合開始時のそれと比べて非常に重いので、重みを加味する勝利期待値を利用して「ここぞ」の働きを評価するというわけです。ただNPBではなかなか算出が簡単ではないというのが残念なところです。




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