守備指標の話 RFとRRF

2009.2.22

by Baseball Concrete

1.レンジファクターの本質的意味

 守備力の評価に使われる指標にRange Factor(以下RF)というやつがあります。

 近年急速に認知度が上がっている気がしますし(上がっているといいな)当サイトの守備評価のページでも取り上げていますので今更ですが。

 式は「(刺殺+補殺)×9/守備イニング」ですので、9イニングあたりにいくつ刺殺と補殺を記録したかを表します。ただ単にRFの式に注目する限りは、それ以上でもそれ以下でもありません。

 これが野手個人の守備力を表す数字と考えられるロジックとしては「守備範囲の広い選手ほど積極的に多くのアウトを奪い一試合あたりのアウト関与は増えるだろう」というところでしょうか。ここからはもう解釈と使いようです。

 つまり少し突っ込むとRFは「アウトを取った」ことを評価の基準としていると考えられます。刺殺と補殺を用いているのは、たまたま存在する記録がそのふたつだからでしょう。守備の評価を加点的な《取ったアウトの数/出場した機会》の式に押し込めたものに見受けられます。

 

 ここで問題になるのが分母です。RFではイニング数が分母となっていますが、イニング数とはアウトのことであり、選手の出場イニング数はその選手が出場している間にチームがどれだけアウトを記録したかを示すことになります。

 そのような整理から改めて式の組成を考えると《個人のアウト/チームのアウト》と表現でき、RFというのはチーム内のアウトのシェアだったことがわかります。

 このことがはっきり出るのはチーム単位でRFを算出したときで、全てのチームがほとんど同じ値を返します。チーム全体では式の意味が《チームのアウト/チームのアウト》になり、試合が成立している以上誰かはアウトを取っているわけですしある値を同じ値で割るだけなのですから明らかに数字として無意味です。結果的にひとつのアウトに複数の選手が関わることが多ければ補殺の分値が上がりますが、このことに本質的な意味はないと考えます。

 というわけで実のところRFにはマクロ的な守備の内容として“失敗”の概念はないことになります。27アウトを奪うまでに8本のヒットを許すチームでも12本のヒットを許すチームでも、アウトの分配の形さえ同じならチームのRFも各守備位置のRFも同じ結果を出すことができます。

 打球が安打になるのを防ぎアウトにするというのを守備の基本的な役割と考えるとき、RFというのはマクロ的には守備力を表す数字でもなんでもないわけです(……というのは煽りを込めた大袈裟な言い方ですが)。

 

2.Relative Range Factor

 RFの改良版として開発されたのがRelative Range Factor(以下RRF)です。

 ゾーンレーティングやプラスマイナスシステムが求められない日本で適用可能な中で信頼度の高い守備指標として雑誌にまで取り上げられたRRFですが、なんだか計算の手順がRFと比べ複雑であるために意味が理解しにくいような感じがします。というわけでここからが本題で、管理人の考えでRRFの意味を探ってみることにします。

 投手の左右の補正など細かい部分を省略した計算方法を以下にまとめます。

 

 ※遊撃手用の式

  1. 期待補殺を求める。リーグの「遊撃補殺/(総補殺-外野手補殺-捕手補殺)」を求め、これをチームの「総補殺-外野手補殺-捕手補殺」にかける。
  2. 期待刺殺を求める。リーグの「遊撃刺殺/(総刺殺-奪三振-外野手刺殺-遊撃補殺-三塁補殺)」を求め、これをチームの「総刺殺-奪三振-外野手刺殺-遊撃補殺-三塁補殺」にかける。
  3. 「刺殺+補殺」を「(期待補殺+期待刺殺)×(守備イニング/チーム守備イニング)」で割り、「チームDER/リーグDER」をかける。

 

 基本的には同じチームで同じ分守ったら平均的にいくつ刺殺・補殺が記録されるかを推定し実際の刺殺・補殺と比較して傑出度を出す指標です。

 とりあえず細かいところは省いて最後に注目します。「チームDER/リーグDER」の部分です。

 DERは本塁打を除くインプレー打球をアウトにした割合で、リーグ平均との比較でチームのDERが高いほど守備者が高い評価を受けるようになっています。

 つまりRFではいくら安打を許そうがアウトの(チーム内)シェアだけが問題になったわけですが、RRFではアウトのシェアを得ていても多くの出塁を許すチームでは評価が低くなります。

 長いRRFの算出式の中では記述としてはちょっとした部分ですが、根本的な守備の役割を考えたときこのDER補正が守備指標としてのRFとRRFの最も重大な違いだと考えます。

 試合を成立させるには誰かがアウトを取らなければなりません。遊撃手を除いて周囲がザルだらけの場合、遊撃手周辺以外に飛んだ打球はなかなかアウトにならず、遊撃手の周辺に打球が飛んでアウトになるのを待つことになります。当然全体のアウトのうち遊撃手の獲得アウトの割合は多いものになるでしょう(ケースA)。しかしその遊撃手が名手だらけのチームに入った場合、自分の責任外の範囲でもバンバンアウトが取られ、全体のアウトのうちのシェアは下がります(ケースB)。このときケースAの遊撃守備を高く評価しケースBを低く評価するのが旧来のRFです。しかし実際には守備力は変わりません。チーム守備力の補正を加えることによってこの問題に対処することができます。

 『日本プロ野球計量分析レポート&データ集』のmorithy氏が提唱している奪アウト率も、守備者が安打を許すほどに増加するBIP(Balls In Play)を分母とすることによって最初からこの問題に対応していると言えます(BIPはDERの分母でもあります)。このことは、根本的には、RFと比較しての改善点として氏が第一に挙げられている投手の奪三振能力補正よりも重要だと私は考えます。

 

 RRFに話を戻します。

 RRFでは補殺の評価と刺殺の評価に異なる基準が用いられています。

 補殺評価の基準は「遊撃補殺/(総補殺-外野手補殺-捕手補殺)」というものです。野球の守備位置は投手・捕手・一塁手・二塁手・三塁手・遊撃手・外野手ですから、捕手と外野手の補殺を除くと投手・一塁手・二塁手・三塁手・遊撃手が残り、要は内野を守る選手の補殺のうちどれだけを独占したか?が焦点になっています。補殺は基本的に内野ゴロを処理したときに記録されるもので、この数字をベースにすることにより投手の奪三振や外野へ飛んだ打球は関係がないものになります。

 内野補殺のうち遊撃手がどれだけ占有しているかの平均的な割合を調べ各チームの内野補殺数にかけると、そのチームで平均的な遊撃手が守った場合に獲得するであろう補殺数が求まります。これを実際の補殺数と比較して評価とするわけです。平均的な占有率が30%だとするなら、内野補殺1400のうち420補殺でも内野補殺1600のうち480補殺でも同じく平均的という評価です。ゴロアウトの多い投手陣の後ろを守れば多く補殺をとって当然だろうということですね。また占有率を問題にしていますから他の内野手の守備能力が低ければ必然的に遊撃手のアウト占有が増えてしまいますがそこは最後にDER補正が働いてもし多くの安打を許したなら評価を下げられる仕組みです。

 DER補正をしない場合この補殺評価法は内野全体で必ずゼロになること、内野全体の補殺能力の優劣はチームのDERによって決定されることが特徴的です。外野手がDERに与える影響などを考えると論理的に文句がないとは言えないでしょうが、RFと比べてベターであることは間違いありません。

 

 次に刺殺評価を考えます。これも「遊撃刺殺/(総刺殺-奪三振-外野手刺殺-遊撃補殺-三塁補殺)」というのはやはり内野の刺殺のうちどれだけを独占したかが基準になっているように見えます。外野手の刺殺(外野フライ)と奪三振が除外されている他、三塁手と遊撃手の補殺となったケースも遊撃手の刺殺機会とはならないとして除かれるようです。

 ところで総刺殺などアウト数をベースとして単純に奪三振や外野刺殺を引くだけというのはあまり好ましくないと考えます。例えばバックの守備能力が皆無であるとき投手は三振でアウトを奪うしかないので刺殺=奪三振になりますが、こういう場合投手の奪三振が多いがために守備機会がなかったと見積もられるのは不適切です。外野刺殺も同様に、内野手がアウトを取れなければ外野手が普通にアウトを取っている間にアウトのうちの外野刺殺の割合が上がっていきますが、これは投手がフライばかり打たせたと考えるべきものではありません。ピート・パーマーのFielding Runsでは単に分母から奪三振を除くだけなのでやや疑問が残ります(そもそもFRはRFと似て守備の失敗を失策しか考慮していないという問題があります)。RRFでは内野がアウトを取れないためにアウトの中の奪三振や外野刺殺の割合が上がっているならそれもまたDER補正に出るだろうという救済があります。これもまた外野守備力の影響を受けるであろう点が気にはなりますが、補殺評価と同様、評価の基準を内野の打球に絞っており投手の奪三振能力・内外野打球分布の問題にとりあえず対応していると言えるでしょう。

 

 というわけでなんとなくまとめると、RRFはRFで「チーム全体のアウト」だった分母を「内野のアウト」に限定し占有の割合をベースに平均と比較、他の守備者の能力が低いために占有率が上がっているケース(またはその逆)をDERによって補正している指標だと言えそうです。

 この他左投げの投手が投げた割合が多いと補殺から差し引かれたり、守っている間の一塁走者数が多いと(おそらくフォースアウトの機会が得られるため)刺殺から差し引かれたりといった補正があり結果に及ぼす影響もなかなか大きいですが、それ自体の考え方に特に疑問はありません。

 RFからの改善点は管理人が重要だと思う順に以下の通りです。

 主に気になるのは、繰り返しになりますがDERの数字が対象の守備者と全然関係のないところで変動し得るということでしょうか。仮にチームのDERが低かったとして、それは内野がゴロを取りこぼしたためなのか外野の飛球処理能力がマズいためなのかがわからないのです。同じように内野守備をしていても外野の守備力が落ちればチームのDERが下がり、結果的に内野のRRFも悪化します。無論内野手の守備力が高い場合にも不自然な変化をするケースが考えられます。

 しかしそれはBIPをベースとした場合でも同様の話で、RRFの手法特有の問題点というわけではありません。play-by-playデータやゾーンデータがない以上これは仕方がないことです。

 RRFでも運による打球分布のムラや球場の違いによる差などには対応できませんがいくつものバイアスの排除を大胆に試みており、それらの補正は真の意味で「正しい」と言えなくても「行わないより良い」とは言えそうです。RFからの進歩は確実に認められるべきでしょう。

 

3.守備指標の解釈

 以上、RFの何が問題か、RRFは算出式が長いといっても無理に色々な要素を盛り込んだわけではなく単に統計的・論理的に明らかな欠陥を排除することが目的なように見えるといったことを見てきました。

 MLBではもっと詳細で信頼度の高い守備指標が開発されていますがそれらとの比較でも、実証的に、RRFのような補正を施したほうが守備力の実態に迫ることができるのは明らかです。

 ただしベターといっても結果としてRRFが何らかの意味の“真の守備力”を表すかどうかは、管理人としては現時点では「多少は参考になるだろう」程度しか言えません。何年もトップを記録するとか極端な傾向を示している者は本当に守備の力があるのだろうと思います。ある選手がPlus Playsである選手を2,3上回ったとかは参考に値しないと思います。この辺り、何に対してどのくらい参考になるのかというのは今後も常に探っていきたいところです。

 

 そして余談ではありますが、守備指標が出力する数字は守備者にとっての成果で、あえて言うなら打者にとっての打率のようなものです。一定の定義に従って「こういう算出をしたらこういう結果でした」と言っているにすぎません。守備についての本格的な数字が過去に出てこなかったためか、守備の議論というと「実際に試合を見なければ上手さはわからない」という話に(打撃の場合よりも)偏りがちな気がします。

 バッティングフォームの美しさに関わらず首位打者は首位打者として認められるように、本塁打王は本塁打王として認められるように、一定の信頼度がおける数字だと判断されたならば、守備の成果も成果として認められるべきです。数字がそのまま真の実力と言えるわけではありませんし成績はあくまで過去のものに過ぎませんし算出法に多少の疑問はあるかもしれません。しかしそれらは打撃成績や投手成績でも同じことです。

 また客観的な指標が存在しなかったということは上手いとされる守備が本当に失点を防ぐという意味で有効なのかきちんと客観的に確認されてきていないことを意味します。※1

 打撃ならば打率や長打の数は本人・首脳陣・ファンに積極的に意識される数字として残り、その結果の芳しくない選手は仮にスカウトが自信を持って連れてきた選手でも自然と淘汰されていきます。しかし守備では成果の確認がされないまま誰かの「上手い」を根拠に起用されていきますし、その誰かの「上手い」はまた別の誰かの「上手い」に基づいている可能性もあります。主観的な評価の根拠が循環論になってしまう可能性があるということです。無論純粋な野球ファンの一人として評論家の意見を全く信用していないわけではありませんが、何も参考となる情報を拒否する必要はないと思います。主観的な評価が正しいとすれば情報を収集・厳選するほどにその正しさが証明されていくのですから、いずれにせよ意味のあることです。

 「誰々のRFが一位だった」という事実それ自体は、おかしかったり間違っていたりすることはありません(もちろん計算ミスのケースとか守備イニングが推計だったりするのとかは別で)。あとはそれを、与えられたサンプルサイズの中で、どこまでの意味に解釈できるかの問題です。自分が求めている意味に合致する数字かどうかを判断するには数字がどういうものなのかを理解するのがまず重要だと思いますし(間違っているなら理解した上で間違っていると判断すべき)、そのためにも今回はRFとRRFの中身を読み解くことを試みました。

 


※1 関連する例として“守備にスランプはない”のような格言(?)も、確認されないままの仮説がなんとなく常識のように扱われていないでしょうか。2008年のセ・リーグでは、阪神の鳥谷敬がRRFで+48でPlus Playsトップ、故障で調子を崩した中日の井端弘和が-40でワーストとなっていましたが、ゴールデングラブ表彰は5年連続となる井端が獲得しました。このとき投票をした人達は「井端は名手とされているから」との先入観に基づいた判断をしていなかったでしょうか? もしそうでないとするなら指標でこれだけの差がつく中これまでの実績に関係なく純粋にこの年を評価して井端に投票したことになり、いずれにせよ管理人にとっては疑問を投げかけざるを得ない結果となってしまっています。

 

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