守備評価

by Baseball Concrete

1.守備を数字で評価する

 従来、守備力については客観的な指標が皆無と言ってもいい状態でした。守備率が評価に用いられてきましたが、そもそも失策をしない守備が理想的な守備かには多くの方が疑問を持つでしょう。

 試合の目的は勝つことです。そのために守備側がすべきことは失点を最小限に抑えることです。そこで例えば遊撃手個人に求められることはといえば、自分の近くに飛んできた打球をなるべく高い確率でアウトにすることです。安打を許さずアウトを稼げばチームの失点を減らすことができます。

 守備率は残念ながら積極的なアウト獲得を評価する数字ではなく、打球に関わった機会のうち失策がどれだけあるかを表しているにすぎません。失策をしたくなければ極端な話打球に関わらないように動かなければいいわけで、また失策という記録自体記録員の主観ではないかという指摘もあります。「失策が少ない」というのは「失点を防いでいる」ことの評価にはなりません。そう考えるとやはり守備率を軸に評価を行うのは無理があります。ましてや、現代のNPBでは失策が記録される数自体が少なくてほとんど評価に幅が出ないものとなってしまっています。

 ここで一度巷の守備力に関するコメントを振り返ってみると思いつくのは「一歩目の判断が早い」「捕ってから投げるまでが速い」「肩が強い」「背走が上手い」「落下地点まで一直線」……といったものですが、これらは主観的に動きを観察したものであって、守備の成果を表したものではありません。打撃の評価に置き換えれば「内角球へのバットの出がいい」とか「高めの球を上から叩ける」とか「緩急にも体勢を崩されない」といった言葉を並べているだけなのと何ら変わりません。それは成し遂げた結果ではなく手段に過ぎません。主観的な評価が正確である保証はありませんし問題は「それによってどのくらい打てたのか」であるはずです。従来の守備評価は打率等の指標一切なしに打撃を評価するのと同じ状況におかれていました。

 そうすると、打撃での打率などに該当する指標が参考としてあってもいいと考えるのは当然かと思います。

 

2.客観的守備評価の基礎・レンジファクター

 数字による守備の評価を考えるにあたって基礎となるのがビル・ジェイムズによって開発されたRF(Range Factor)という指標です。

 RF = 9×(刺殺+補殺)/守備イニング

 刺殺と補殺はアウト成立に関わったことの記録で、刺殺は最終的にアウトを成立させるプレー、例えば外野手のフライ捕球や内野ゴロでの一塁手の捕球、走者へのタッチなどで記録されます。補殺は刺殺の前で関わった選手、例えば内野ゴロで一塁手へ送球した遊撃手のプレーに対して記録されます。

 これらを足して出場イニングで割って9倍すると1試合(9イニング)あたり平均いくつのアウトに関与したかを表す指標になり、客観的にアウト獲得の成果を評価することができます。これならば、守備率が同じでも積極的に多くのアウトをとっている野手が高く評価されることになります。分子と分母を安打・打数に置き換えれば打率と同じようなものだとわかるでしょう。RF4.3の遊撃手とRF5.0の遊撃手なら後者が優秀といえます。注意点としては、打球の飛んできやすさが違うため異なるポジションの比較はできないことと一塁手と捕手にはそのままで有効な評価とならないことです。

 細部はともかく、RFによって守備の数値評価に光が見えたことになります。RFが主観的な評価に沿う必要はありません。打率3割の打者は、打撃フォームが汚いと文句をつけられようがなんだろうが打数のうち3割でヒットを打っています。それによって得点が増えてチームの勝利が増えるのであれば貢献度として評価すべきです。同様に守備についても、見た目がどうであろうとアウトはアウトであり、走者を生かすという意味ではヒットもエラーも変わらないという見方もできます。打者についてフォームのきれいさではなく打ったヒットの数で評価を行うように、守備についても成果を客観的な事実から評価するという道が拓けました。

 ただし、そうはいっても実際には式の項目が「守備による貢献度を的確に表した数字」と言い切るには大雑把すぎて問題があることは誰もが認めるところで、RFの改良案は多数提案されていますしもっと詳細なデータを使った近代的な指標も開発されています。

 RFの欠点としては、例えば奪三振が多いチームの野手はそもそも打球が飛んでくる機会が少ないため不利になることや、打球の分布には相手打者や偶然による偏りがあるためたまたま自分の守備位置周辺に打球が飛んでくる機会が少なかった野手が不利になること、式の分母がイニング(=打球ではなくチームのアウト)であるため全体的に守備がうまいチームでは数字を上げるのは難しいことなどが挙げられます。

 それでも基本的な考え方は上記のRFから変わりません。知る限りほぼ全ての指標はアウトを取ることを成果として、分母に責任範囲(機会)を入れることで守備の評価としています。その意味でまさにRFは守備数値評価の原点といえます。

 

3.ゾーンシステム

 RFの欠点の解決にはさまざまな試みが行われてきています。例えばRFの開発者であるビル・ジェイムズ自身が進化版であるRRF(Relative Range Factor)を作ったのもその一例で、RRFは投手陣の奪三振率やゴロ/フライ傾向への補正の意味を含んでいます。

→守備指標の話 RFとRRF

 しかし、結局のところ刺殺や補殺といった従来の公式記録に基づいて的確な守備の評価を行うのには限界があります。例えば遊撃手を評価するにあたって、遊撃手がアウトにできるような打球がどれだけ飛んできたかは公式記録からは全くわからないからです。そうすると、ある選手が平均に比べて20個多くアウトを獲得していたと言っても、それが選手の働きによるものなのか、たまたま周辺に飛んできた打球が多かったという条件によるものなのかが区別できません。公平な条件で比較をするためには1年や2年では済まない大量のサンプルが必要になります(大量のサンプルがあれば、統計的に運・不運は平均化されていきます)。

 このような根本的な問題を解決するために誕生したのがZR(Zone Rating)です。ZRは周辺に飛んできた打球のうちその野手がアウトにした割合によって守備を評価する指標で、RFよりも直接的に守備の働きを評価でき、有用な情報を提供します。前述の通り周辺に飛んできた打球の数は従来の記録からは明らかではありませんから、この指標の一番のポイントは専門のデータ会社が記録員を用意してあらゆる打球の飛んだ位置や種類・結果を記録してそれに基づいて算出するということです。このようにセイバーメトリクスの側が直接データをとるようになったのは守備の評価に関して大きな変革でした。

 現在一般的に利用される守備の評価指標は、ZRをさらに進化させる形で生み出されたUZR(Ultimate Zone Rating)あるいはDRS(Defensive Runs Saved)です。以下ではUZRを念頭に説明をしますが、DRSも基本的には同じ仕組みの指標です。

 UZRの指標としての意味は「同じ守備機会を同じ守備位置のリーグの平均的な野手が守る場合に比べてどれだけ失点を防いだか」です。Batting Runsの守備版のような意味になります。計算の考え方は成果として奪ったアウトを数えるものでありその意味ではRFと変わりません。ただし選手同士をなるべく条件を揃えて比較するために、成果に対比させる「その選手の守っていた機会に見込まれるアウト」を精緻に計算する点が異なります。

 算出の基礎となるのはグラウンドを碁盤の目のように多数の「ゾーン」に区分し、どのゾーンにどのような強さ・種類の打球が飛んだかを記録したデータです(当然これは公式記録では得られませんので各シンクタンクが集計することになります)。例えば三遊間の打球について「方向Eに距離3だけ飛んだ速さCのゴロ」といった記録がされていくわけです。

 各選手はこれらの打球をどれだけアウトにしたかによって評価されますが、その打球が平均的に60%アウトになるものであれば、通常は0.6個のアウトが見込まれるということですから、アウトにした場合は差分の0.4がプラス評価として付与され、逆にアウトにできなかった場合には期待された0.6アウト分がマイナス評価として付与されます。これを得点価値によって得点に換算して集計したものがUZRとなります(ただし隣接する選手の能力に干渉されることを避けるため他の野手がアウトにした場合にはマイナス評価は付かないことになっています)。

 UZRの長所は、詳細な打球データと精緻な計算の仕組みによってRFに見られたような守備を評価する際の条件のばらつきをほとんど排除していることにあります。打球が飛んできた場所だけでなく難易度も考慮されるため、単に処理しやすい打球が多く飛んできてアウトを多く稼いだ野手も、UZRでは期待されるアウトも多く計算され差引では大きなプラス評価にはなりません。逆に打球を処理する機会に恵まれなかった選手は期待されるアウトが低くなるためそれによって低い評価を被ることはありません。また上記の基本的な仕組みに加えて、非常に細かな補正も多数盛り込まれ、偏りなく野手の守備だけによって指標の結果が決まるように設計されています。内野手であれば併殺の完成をどれだけ効率的にこなしたか、外野手であれば肩によって走者の進塁をどれだけ防いだかといった打球処理以外の側面についても計算が行われています。

 UZRは守備の貢献度の評価指標として説得力が高く、また結果も失点への影響という分析に有用な形で定量化されているため守備を評価する際に重宝されます。UZRとDRSという類似する2つの指標が存在するのは算出する主体の違いで、MLBにおける有名なデータサイトのうちFanGraphsは選手の総合評価にUZRを採用しており、Baseball-ReferenceはDRSを採用しています(2018年現在)。

 なお、UZRに関してはデータや計算の複雑さが強調されがちですが、繰り返しますが考え方の基本はアウトを獲得した成果を評価するというRFの発想です。条件を揃えるための計算の過程がたまたま打者や投手の評価よりも複雑になるというだけのことです。

→ゾーンシステムとレンジシステム

 

4.チームの守備評価

 RFやZR、UZRは、個人の守備をいかに数値化するかという観点で重要ですが、チーム単位で守備を評価するのに関してはDER(Defensive Efficiency Ratio)という重要な指標があります。これはかなり初期にビル・ジェイムズが開発したものです。

 DER=(打席-安打-四球-死球-三振-失策)/(打席-本塁打-四球-死球-三振)

 DERの分母は本塁打以外の打球を表しており、分子はそのうち野手がアウトにした数を表しています。つまりチーム単位で見て「グラウンド上に飛んできた打球のうちどれだけの割合を野手がアウトにしたか」を表す指標であり、数値が高いほど守備陣が優れていることを意味します。平均は7割前後です。

 DERはUZRと違い公式記録から簡単に出せる上に内容も明快で優れた指標です。概念的に言えば、前述のZRはDERを個人単位に分割したものであるともいえます。リーグ平均値との差をとって得点価値を乗じればいわば「チームのUZR」を計算することもでき、この数字はチーム単位での分析を行う際には有用です。

 得点化DER=0.78×(DER-リーグ平均DER)×(打席-本塁打-四球-死球-三振)

 

5.当サイトの過去の試み

 UZRが参照できるという前提においては積極的な意味が薄れてしまいましたが、過去にRRFや当サイト独自の評価法で守備者の評価を計算していたものを一応載せておきます。

→内野手RRF・FR

→捕手守備評価

→内野手守備評価

→外野手守備評価

→チーム守備評価

 

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