打者評価

―打撃の価値とLWTS系統の評価指標―

 

1.打者の仕事とは何か

 一般的に打者の成績ランキングは打率の順で並べられます。シーズンで打率が最も高かった打者は「首位打者」として表彰されます。しかし、打者の仕事は高い打率を残すことでしょうか。

 「基本的な考え方」「選手評価の基礎」のページで見てきたとおり、試合の目的は勝利です。そのために攻撃時になすべきことは、得点をなるべく多く記録することです。従って打者の仕事は打率を上げることではなく得点を生み出すことです。

 この点から考えると、打率というのは非常に使いづらい指標です。打率は得点価値を持つ四球を無視していますし、安打は全て同じ扱いになることから安打の重みの意味でも得点への貢献と乖離することになります。そうすると四球や長打が多い打者の得点への貢献が表現されず、適切な貢献度の評価になりません。また数値もそのままでは得点の単位をとっていないため、.280の打者と.300の打者を比べてどちらがどれだけ得点を増やして勝利を増やしているのかも判然としないという問題があります。

 また、いわゆる打点も、各選手を公平に比較するのには適さない指標です。二人の打者が連続して二塁打を打って得点が記録された際、二人目の打者(だけ)が得点を生み出したとする理解は、得点が生まれる仕組みとしても選手の貢献度という意味でも有益なものではありません。

 セイバーメトリクスではこういった問題意識から、選手の打撃における貢献度を得点という観点でより適切に表すための評価指標が多数生み出されています。

 

2.LWTS系統の評価指標

(1)LWTS(Batting Runs)

 まず、今日の選手評価において基礎を成している分析手法にジョージ・リンゼイ、ピート・パーマーによるLWTS(Linear Weight System・リニアーウエイトシステム)があります。これは既に「基本的な考え方」の中で説明しましたが、試合における特定の走者・アウト状況から平均的にどれだけの得点が見込まれるかという得点期待値をベースに、様々な事象に得点の意味での価値を割り当てて評価に用いる手法です。LWTSによる打撃の評価をBatting Runsといい、今日ではwRAA(weighted Runs Above Average)と呼ばれて広く選手の評価に用いられています。

 Batting Runs=0.47×単打+0.78×二塁打+1.09×三塁打+1.40×本塁打+0.33×(四球+死球)+0.30×盗塁-0.60×盗塁刺-0.25×(打数-安打)

 得点価値は平均的な得点の見込みに対する増減を表しますから、Batting Runsの指標としての意味は「同じ打席数をリーグの平均的な打者が打つ場合に比べてどれだけ多く(または少なく)得点を生み出したか」となります。リーグの平均的な打者であればゼロとなり、チームの主軸打者であれば年間で+20前後、リーグ屈指の打者であれば+40くらいの数字になります。逆に控えレベルの劣る打者は-20くらいです。

 Batting Runsの優れている点は、打率と違って四球も考慮に入れますし、長打に重みをかける形で得点への影響に即して打者の働きを評価するところです。これによって打者同士を比較して、それぞれの貢献度が得点の意味でどれだけ違うのか、より多くの勝利をもたらしているのはどちらかという有益な情報を得ることができます。

→打撃総合指標について

(2)wOBA・wRAA

 Batting Runsは選手の評価に極めて有用であるものの、少しとっかかりにくい指標です。というのも指標の意味自体にリーグ平均との比較が織り込まれており、+5とか-7といった数字の表し方は従来の野球の数字にはなかったものだからです。

  そこでLWTSをもう少し身近に使う方法としては、近年よく利用されるwOBA(weighted On-Base Average)があります。これはトム・タンゴという分析家がLWTSに基づいて開発した指標で、安打や四球に係る得点価値をアウトをゼロとした場合の価値に直し、平均値を出塁率に揃えるように補正をしたものです。式の係数は年によって変わりますし四球から故意四球を除くか、分子に失策出塁を入れるか、盗塁を入れるかなど目的とする分析に応じて式の組み方は色々なパターンがあり得るのですが、ここでは筆者の好みによりやや簡単な形を紹介しておきます。

 wOBA=(0.7×(四球+死球)+0.9×単打+1.3×二塁打+1.6×三塁打+2.0×本塁打)/(打数+四球+死球+犠飛)

 wOBAは出塁率と同じ感覚で見られるように設計されているため、平均的な打者は.330前後となります。.350を超えてくるようだと強打者で、.400前後ではリーグを代表する打者となります。

 wOBAの高さは要するに打席あたりのBatting Runsで決まるため、指標の意味としては「打者が打席あたりにどれだけ得点の増加に貢献する打撃をしているかを表す」と言えます。ただし出塁率に合わせる調整の関係で数字の大きさは得点の単位ではなくなっているため、wOBAが.330の打者が「打席あたり0.33点を生み出す打者」といった読み方をすると間違いになります。wOBAを基にその打者がどれだけ得点を増減させたかを知るためにはwOBAからBatting Runsを「復元」する作業が必要になり、そのように計算した数値を慣例的にwRAAと呼んでいます(意味はBatting Runsと同じなのですが)。

 wRAA=(wOBA−リーグ平均wOBA)÷1.2×打席

→イチからわかるwOBAのすべて

(3)OPS

 ところで、打撃を評価する「率」系のセイバーメトリクス指標としてはOPS(On-base Plus Slugging)がよく知られています。

 OPS=長打率+出塁率

 長打率と出塁率をただ足し合わせるだけの大胆な算出方法ですが、これで四死球・安打を全て含めてしかもそれぞれに異なる重みを与えた形となり、意外なほど得点との関連が強い指標が得られます。

 式の内容としては大雑把に言うと分子は「安打+塁打+四死球」になり、分解すると 四死球:単打:二塁打:三塁打:本塁打 が 1:2:3:4:5 の比重で評価されることになります。この1:2:3:4:5をなんとなく1/4にすると

 0.25:0.50:0.75:1.00:1.25

 得点期待値の研究から割り出したBatting Runsの加重は

 0.33:0.47:0.78:1.09:1.40

 ですからなかなか近く、簡単なわりに得点への影響度の実態に即した加重バランスであると見ることができます。分母のほうはこれまた大雑把に言えば打撃の機会数です。

 ピート・パーマーはOPSをLWTSの簡易版だと言っています。従って、細部にはもちろん問題はあるのですが(厳密に言うとLWTSに比べて長打の比重が大きすぎます)、あくまでも簡単に計算できる簡易的な指標と捉えておくべきでしょう。OPSは.700前後が平均的な打者で、超一流の打者で1.000を超えます。

 OPSは得点との結びつきが強いため単に打者の優劣をランク付けるのであれば非常に強力な指標です。ただしOPSの欠点は、数字の単位が「出塁率+長打率」という独特の単位であり、数字そのものから意味を読み取れないことが挙げられます。例えば.700というのはOPSとして平均的な水準で、.850というのはかなり優れた数値です。しかし「かなり優れた」というだけではチームにとってどれだけの利益がもたらされているのかわかりません。得点への貢献度を知りたければLWTSや後述のRC等を使うことになります。

 

―得点の仕組みとRC系統の評価指標―

 

3.出塁率と長打率

  上記のLWTSは、とにかく過去に起きた状況がどれだけ得点を生んでいるかを集計することで得点価値を導き出す、極めて統計学的な発想のアプローチと言えます。

 これに対して、得点が生まれる仕組みはどうなっているかという野球の構造から考えていくアプローチも存在します。

 野球の仕組みを考えた際、一番の基本となるのが野球の攻撃というのは「27アウトをとられるまで永遠に終わらないゲーム」だということです。イニングというのはタイムリミットで終わるものではなく、アウトを奪われない限りいくらでも点を入れることができます。

 この観点から重要なのは出塁率です。出塁率は打席のうちアウトにならず塁に出た割合を表す数字であり、この数字が得点を考える上での基本となります。

 出塁率=(安打+四球+死球)÷(打数+四球+死球+犠飛)

 言い方を換えればまずは塁に出なければ絶対に得点は生まれませんから、出塁というのは得点の最も基礎的な構成要素です。

 そして理論上は、単に塁に出たというだけでは得点を生み出すことはできません。出塁したら進塁することで点になるのが野球の仕組みであり、出塁の次に進塁という要素を考える必要があります。進塁を考慮して打者を評価する指標が長打率です。

 長打率=(単打×1+二塁打×2+三塁打×3+本塁打×4)÷打数
     =塁打÷打数 

 出塁率と長打率はそれぞれ単体でも選手の評価に使うことができる指標です。


2.ビル・ジェイムズのRC

  得点が生まれる仕組みへの模索を推し進めて安打や四球といった数字から直接に生み出される得点を予測する公式を作ったのがビル・ジェイムズです。この式はRC(Runs Craeted・得点創出)と呼ばれ、セイバーメトリクスにおける指標の中でも最も古典的かつ有名、そして重要なもののひとつです。現在では実際に分析に使われることは減っているのですが、その考え方の重要性は色褪せません。

 RCの計算式には多数のバージョンが存在しますが、最も基本的なものは下記です。

 RC(Basic)=(安打+四球)×塁打÷(打数+四球)

 この式は基本的な構造としては「出塁率×長打率×打数」という形をしています。出塁率と進塁が掛け合わさって得点を生むことが考慮されています。

 RCは簡単な式ながらこれでチームの実際の得点を高い精度で予測することができます。つまり、チームの打撃成績にRCの計算式を当てはめて算出した数字は実際の得点数に近くなるということです。ということは、チームの総得点を増やすためには出塁率と長打率こそが根本的に重要であり、それ以外の要素はあまり重要でないことになります。例えば犠打や盗塁はこの式に入っていません。

 もちろん打率のような旧来の指標でも、打率の高いチームほど得点が多いという相関関係はあります。しかしその相関関係はそれほど強くなく、打率では得点の7割ほどしか説明できないのに対してRCは得点の9割以上を説明できます。

 そしてRCが得点を近似できることの当然の帰結として、チームとしてはRCが高いような打者を並べれば得点が増やせることになりますし、RCの計算式を個別の打者に当てはめればその打者がどれだけ得点を生み出したかを知ることができます。

 RCは打者を得点で評価する意味ではBatting Runsと同じですが、リーグ平均との対比ではなく生み出した得点の総量を表すことから直感的にもわかりやすい数字です。RCが60の打者はトータルで60の得点をチームにもたらしたという意味ですし、その打者が9人並んだ打線があればチームの得点は540ということになります。

 RCのバージョンのうち個人を評価する際によく使われるのは2002年バージョンと呼ばれるものです。式はずいぶん長く複雑に見えますが、Basicに盗塁や犠打などを足して、個人に適用するための補正を入れたものとなってます(RCの計算式の内容や思想についての詳しい考察は、別稿の「偉大なるRuns Craeted」をご覧ください)。

 RC(2002) = {(A+2.4×C)×(B+3×C)÷(9×C)}-0.9×C
  A = 安打+四球+死球-盗塁死-併殺打
   B = 塁打+{0.24×(四球-故意四球+死球)}+0.62×盗塁+{0.5×(犠打+犠飛)}-0.03×三振
   C = 打数+四球+死球+犠打+犠飛

 RCを見るだけではその打者が他の打者と比較してどれだけ優れているのかわからないので、同じ打席数に見込まれる平均的なRCを減算する形で打者を評価するRCAA(Runs Created Above Average)という指標もあります。

 RCAA=対象打者のRC-(リーグの打席あたりRC×対象打者の打席数)

 RCが80で、同じ打席数に見込まれるリーグの平均的な打者のRCが65なら、RCAAは+15となります。結果的には「同じ打席数をリーグの平均的な打者が打つ場合に比べてどれだけチームの得点を増やしたか(または減らしたか)」を表す指標となり、意味はBatting Runsと全く同じになります(結果も通常はほとんど変わりません。そして逆に言うとBatting Runsに平均的な打者の得点創出を出せば総得点を推定する式になります)。

 さらに、RCを消費したアウト数で割って27倍すると「その打者が1番から9番まで並んだ打線の場合1試合でどれだけの得点が見込めるか」を表すRC/GあるいはRC27と呼ばれるユニークな指標となります。

 RC/G=RC÷(打数-安打+盗塁死+犠打+犠飛+併殺打)×27

 RCは安打数のように打席数が多いほど増やしやすい数字であるため、安打数に対する打率のように、打撃機会あたりの生産性を評価するためには素のRCよりもRC/Gのほうが便利です。またチームの試合あたり平均得点と同じ意味の数字になるため、その数字が高いのか低いのかということも直感的にわかりやすいのが特徴です。4.00点前後が平均的で、強打者では6.00や8.00という数字になっていきます。

 

4.得点推定式の王様BsR

  RCのように打撃成績から得点数を予測する計算式(モデル)を一般的に得点推定式と言いますが、RCの欠点を解消する形で開発されたのがデイビッド・スミスによるBsR(Base Runs)です。

 BsR = A×{B/(B+C)}+D
  A = 安打+四球+死球-本塁打-0.5×故意四球
  B = {1.4×塁打-0.6×安打-3×本塁打+0.1×(四球-故意四球+死球)+0.9×(盗塁-盗塁刺-併殺打)}×1.1
  C = 打数-安打+盗塁刺+併殺打
  D = 本塁打

 式のうちAは出塁、Bは進塁、Cはアウト、Dは本塁打を表しており、{B/(B+C)}の部分は「生還率」と呼ばれる出塁した走者が生還する割合となっています。この式は得点が生まれる仕組みを図式に表したものとして優れています。

 そもそも、RCは結果として非常に強力な式ですが、出塁率に塁打を掛けるような形で何故得点数に近似した数字が得られるのかということについていまひとつ明確ではないところがあります。これに対してBsRは、式が「出塁数×出塁した走者が生還する割合+本塁打」という形をしており、「得点とは出塁した走者のうち生還した数と本塁打の数の和である」という野球の仕組みが論理的に表現されているのが特徴です。

 得点の仕組みをうまく式に落とした結果、実際に得点を予測する能力も高くなっています。さまざまな得点推定式を並べて実際の得点を予測する精度を検証すると、たいていBsRは最上級の精度を誇ります。思考実験としても、例えば先頭打者が本塁打を打った時点の得点創出はLWTSでは1.40点になり、RCでは1×4/1で4点でいずれも破綻しています。しかしBsRなら正確に1点という結果を返します。モデルとして納得感も高いと言えます。

→打撃総合指標について

 なお、ここまで述べてきたような内容をさらに深堀りする論考として筆者は書籍『セイバーメトリクス・リポート4』に「得点推定式を読み解く」という記事を寄稿しています。この論考ではLWTSやRCなどさまざまな得点推定式を紹介し、それらの中身を詳しく検討しつつ、相互の関係を整合的に理解するための解釈を展開しています。

 得点推定式の理解というのはセイバーメトリクス(ひいては野球そのものの構造)を理解する上で核となるとても重要なものだと考えています。得点推定式は単に打者の貢献を得点の単位で評価するためだけのものではなく、野球全般を考える上で思考のツールになり得ます。例えば安打を打つ側ではなく打たれる側に視点を変えて考えれば、いかに失点を防ぐかという考察に使うことができます。野球の技術論を語るにあたっても、それがよりよい結果をもたらして得点を生み出すものでなければ意味がありません。そういった意味でも得点推定式の世界は奥深く、また探求するのが楽しいものでもあります。

 

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